Skip to main content

4. 階名とシラブル

色々と名前を紹介したものの、こと「メロディラインを論じる」という観点からすると、いずれも冗長さが目立ちます。例えば「ドレミファミレド」を「i-ii-iii-iv-iii-ii-i」とか「主音-上主音-中音-下属音-中音-上主音-主音」と表現しなきゃいけないのは、かなり面倒ですよね。

改めてみると、「ドレミファソラシ」という名前は爆裂に優秀です。全員が短い1音節で、しかも愛着が湧くような個性、可愛げがあります。

ドレミは可愛らしい

そこで、次のようなメソッドがあります。それは、この「ドレミ」こそを、相対音名として用いようというものです。つまり、1・2・3… という無機質な数字の代わりとして「ドレミ」を使うのです。

どんなキーであろうと、リーダーの音を「ド」と呼ぶというシステムです。「ドレミ」が鍵盤の位置を表しているという観念をスッパリ捨てて、キー内の番号を象徴する存在として使うのです。

上の楽譜は、今までだったら「ソ-ラ-シ-ド-レ-ミ-ファ」と読むところですが、このとおり「ド-レ-ミ-ファ-ソ-ラ-シ」と読みます。

別のキーでの例も見てみましょう。

この楽譜も「ファ-ソ-ラ-シ-ド-レ-ミ」とは読まず、やっぱり「ド-レ-ミ-ファ-ソ-ラ-シ」と読むわけです。
言い方を変えると、このシステムはどんなキーでも「もしCメジャーキーに直したらどうなる?」という目線で楽譜を変換している、とも言えます。

ABC音名に慣れていこう

きっと最初は、頭が混乱すると思います。今まで「ソ」と呼んでいた音を「ド」と呼んだり、はたまた「ファ」を「ド」と呼んだりするのですからね。

しかし、英米の人たちはこの方式でも混乱することはありません。なぜなら彼らは、音名にはそもそもABCを使うからです。

ABC音名で表記した場合

彼らからすれば、ドレミは「ちょうど都合よく余ってたヤツら」だったわけで、これを相対名として用いるのは合理的選択でした1

日本人の私たちがこの方式に慣れるまでには、少し時間がかかります。でも考えてみれば、「ト長調はGメジャースケール、主音はソ」などという3言語混合のスタイルを続けるのはやっぱりバカバカしいところがあります。

なのでこれから少しずつアメリカンなABCの音名に慣れてもらって、一方でドレミは「相対名」という特別な役割として活用していくという、このメソッドを選びます。

名称について

このように、キーに対して相対的にあてられたドレミは、階名と呼ばれます。絶対的な位置を表す「音名」と対になるような概念です。また英語ではこのシステムをソルファSol-faなどと呼び、ドレミの各音はシラブルSyllableと呼ばれます。

マイナーキーと階名

そしてマイナーキーの場合は、Aマイナースケールになぞらえるような形で先頭をラとします

だから、先ほどは「どんなキーでも、リーダーの音をドと呼ぶ」と説明しましたが、これは厳密に言うと語弊がありました。「メジャーキーならリーダーをド、マイナーキーならリーダーはラと呼ぶ」ということですね2

別のキーも見て見ましょう。

やっぱり最初は違和感があるとは思いますが、これは越えていかなければならない壁のひとつです。

5. 見えてくるものの違い

音名と階名では、メロディのうち注目している部分が異なります。

階名による歌唱
音名による歌唱

こちらは典型的な比較で、「ドレミファソファミレド」というフレーズをまずCメジャーキーで、それからDメジャー、Eメジャーと全音ずつ上げていったものです。

階名の歌唱だと、常に中心をドと呼ぶので同じ言葉の繰り返しになりました。対して音名の歌唱では、音の高さが変わるので言葉も変わっていきました3

階名で歌うと、「キーがどんどん上がっていってる」という事実は見えづらくなります。一方で、「キーは違うけど、フレーズの意味はずっと同じ」という事実がハッキリと見えます。ここでいうフレーズの意味というのは、「中心音から順に上がって、折り返して戻ってくる」といった動きの情報のことです。

そして音名は、ちょうどその正反対ですね。高さが変わっていることは伝わってくるけど、同じ意味のフレーズを繰り返していることに気づきにくい状態となります。

メロディ理論が掘り下げていくのは、「この曲とこの曲、キーは違うけど、使ってる技法は一緒だな」といった部分なわけですから、大事なのはキーの高低よりもフレーズの意味です。だから重要性の高い“相対名”の方に可愛らしく歌いやすいドレミを用い、一方で音名はABCで慣れていくという方針を採ります。

相対音感を磨く

相対的な音名でメロディを分析することは、相対的な音感、すなわち相対音感を磨くことに繋がります。相対音感というのは、例えば中心音に着地したときにそれが分かる。音が跳躍したときに、何度跳躍したのかが分かる…といった類の音感です。そうした感覚というのは、メロディ作りのセンスにも大いに関わってくる部分です。

このメロディ編を通じて「階名」のシステムに徐々に慣れていってもらいたいと思います。

まとめ

  • 絶対表記の音名ではなく、キーの中での立ち位置を示すための、相対表記の音名があります。
  • 音階に数字をあてていったものを、音度といいます。
  • 「ドレミ」を鍵盤の絶対的な位置情報ではなく、キーの中での相対的な位置情報として使う考え方もあり、そのようにしてあてられた名前のことを「階名」といいます。
  • 音度であれ階名であれ、キー相対的にメロディを捉えることでメロディの分析が捗るほか、相対音感の習得にも繋がります。
Continue

1 2