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1. ようこそ古典の世界

さて、それではここからいよいよ古典派理論の本論に入っていきます。伝統的な古典派の書籍では、まず最初に「度数」について詳しく解説するのが普通です。ハーモニーの原理をより深く理解していることが、和声を学ぶうえでは重要なのです。
ここでもその慣習に従い、まずは度数について詳しく取り扱いますね。基本の復習から始まり、これまで触れて来なかった科学的な側面にも切り込みます。

2. 度数と響き

これまでもコード編・メロディ編で、度数と響きの関連性については述べていますが、改めて確認しますね。

度数
  • 1度は、言うまでもなくルートと完全に協和します。
  • 3度は、和音の長短を司る重要な度数です。
  • 5度は、ルートとよく協和し、ルートの響きを補強します。
  • 7度は、ルートに対し適度な濁りを生じます。
  • 2度は、ルートとぶつかり強い不協和を生みます。
  • 4度は、5度と同じく「完全音程」を作る音度ですが、5度ほどは協和しません。
  • 6度は、3度と同じく長短に影響する音度です。

こういった話は、調性引力論の「シェル」のところでも少し登場しましたね。もちろん他に「増・減」の音程もありましたが、ここでは割愛。

和音の転回

今さらの確認になりますが、3度の音程はひっくり返すと6度になり、4度はひっくり返すと5度に、そして2度は7度になります。また長・短の属性も必ずひっくり返るという法則があります。

転回

完全音程は、ひっくり返しても完全音程のまま。
「ひっくり返す」と言わず、「片方をオクターブ上下させる」と言った方がピンと来る人もいるかもしれません。例えば「3度上のハモり」を1オクターブ下げると、「6度下のハモり」に変えることができます。

ハモりチェンジ

ですからここに、「度数のペア関係」のようなものがあるわけですね。

  • 彩り役としての3度・6度
  • 補強役としての4度・5度
  • 濁り役としての2度・7度

これをハッキリ明示するのはここが初めてですが、既にもう何となく分かっていた人も多いのではないでしょうか? このように音の上下関係をひっくり返す行為のことを、和音の転回Inversionと言います。

長短の響きを付加する3度や6度を用いて音を重ねることは、曲の彩りをより豊かにします。歌メロのハモリで3度が最も愛用されるのも、それによってメロディラインがより華やかに彩られた感覚を我々の耳にもたらすからです。

逆に、5度は長短がない代わり、パワーを補強する働きがあるということは、「パワーコード」の時からもう明らかなとおりです。

「新しい和声」では、3度を「柔らかい響き」、完全5度を「硬質な響き」と称しています。この「音が柔らかい・硬い」という感覚、あるいは「音の彩り」という感覚。これが、より厳密な音の重ね方において極めて重要になって来るということを、知っておいてください。

とはいえ、「柔らかい」「硬い」の一言で片付けてしまうのも、なんだか釈然としませんね。もちろん過去の音楽学者たちも、そんな「雰囲気」で話を進めていったわけではありません。きちんと科学的な考察も重ねたうえで出来上がっています。

だから、少し本論からは逸れてしまうのですが、この辺りでちょっとだけ音響学(Acoustics)の話にも足を踏み入れることにしましょう。本編とはそんなに関係ない科学の話なので、興味のない方は読み飛ばしてしまってかまいませんよ。

3. 周波数と音高

音とは、空気の振動。音の高さは、その振動の速さ(周波数)によって決まるというのは、理科の授業でやったかと思います。

こちらは、周波数220hzの音です。音には色々なサウンドがありますが、これは世界で最も単純な音波である、「サイン波」を、Maxという音響ソフトを使って鳴らしています。

サイン波

高校で数学を学んだ人は分かると思いますが、このシンプルに波打った音の形は、sinの関数で表すことが出来るので、サイン波と呼ばれる。

220ヘルツっていうのは、1秒間に220回振動してるってこと。220Hzは、音程でいうと「ラ」の音になります。一般的にはこの高さのことを「A3」と呼びます。そして、周波数を2倍にすると、ちょうど1オクターブ上のラになるという法則があることも、理科の時間でやったかと思います。


これが440Hzの音です。これは数字が1つ増えて「A4」と呼ばれます。じゃあ、3倍するとどうなるんでしょうね? またオクターブ上になるんでしょうか?

これが3倍の660Hz、「E4」です。ラじゃなくて、ミの音になっています。まあ考えてみれば当然で、「周波数を2倍にするとオクターブ上がる」だから、440Hzのオクターブ上を鳴らしたかったら、その2倍の880Hzにしないといけません。

2倍2倍


これが880Hzで、「A5」1。そうすると次に気になるのは、220Hzを5倍にした、1100Hzの音がどうなるかですね。

これは、また新しい音程ですね・・・これはド♯です! 「C♯5」の音程になるんですね。ここまでの話を表でまとめるとこうです。

周波数 倍率 音程
220Hz ×1 A3
440Hz ×2 A4
660Hz ×3 E4
880Hz ×4 A5
1110Hz ×5 C#5

さて、理科の実験はもうおしまいです。これを通じて何を確認したかったかというと、ある周波数を倍々にしていって真っ先に現れる別の音程が「完全5度」だということ。
周波数の比率が単純であるということは、和音にした時の響きもそれだけ単純明快に感じるということが一般に認められています。

改めてこちらは、220Hz・440Hz・660Hzを同時に鳴らした和音です。サイン波同士が混ざり合ってひとつの音のように聴こえてしまっているかもしれませんが、よく聴くと複数の音程が同時に鳴っています。
親しみやすい言い方でいえば、ベース音と、そのオクターブ上の音と、さらにその完全5度上ってことですね。

1-8-5

言うまでもなくこれは「パワーコード状態」ですから、とてもストレートな響きがします。この周波数上の関係性から生まれる性質を、ちょっと詩的に表現したのが「硬い響き」という言葉なのです。
そして、完全5度の次に現れるのが「長3度」であり、この3つでメジャーコードが出来上がるという点も見逃せません。

周波数の比率は3:4:5で、三和音で作る周波数比率としては最もシンプルなのです。そして、このまま6倍,7倍,8倍・・・と進んでいくと、7度や9度といった濁りの音程が登場することになります。

そんなわけで、最終的な「硬い」という言葉はやっぱり雰囲気の話ですが、ただそのバックグラウンドにはこういう科学的な部分が潜んでいるんだということです。こういった事象を頼りにして、音楽理論の考証がされていったわけです。

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