和声 : 並達の禁則

コード編 Ⅶ章:古典の世界

#1 並達八度・五度の禁則

「連続」に続いて禁則とされるのが、「並達」の5度と8度です。「並達」とはどんなものを指すのか、まずは楽譜を見てもらいます。

並達8度

八度が連続しているわけではない。しかし「並行」の移動をして、完全八度に「達する」ということで並達八度Hidden Octaveと名付けられました。
達する前の度数は関係なく、「並行して8度に到達」という点がポイント。別名で「直行」「隠伏」といった呼び名もあります。
どうなんでしょう? さっきの「連続8度」と比べると、3度から8度へと彩りを変えているので、何も問題なさそう・・・ちょっと音源を聴いてみますか。

「別にいいと思うけど・・・」

ガラッ

誰だぁっ
©️雁屋哲

ヒィッ! そうです。至高のハーモニーを目指す人間にとっては、これも納得がいかないのです。反行や斜行に比べて並行はそもそも一体感がありますから、8度の直接的な連続でないにせよ、「並行型の移動をして8度に着いたなら、それは連続8度と大して変わらん!!」と考えるのです。本当に、極限の美しさの追究なのであります。
ちょっとアルトとテナーにフィルターをかけて聞こえにくくして、ソプラノとバスだけを目立たせて聴いてみます。

たしかに、連続8度の時に近い「響きの硬さ」があるかもしれない・・・。

そんなわけで「二声が並行型の移動をして完全8度の関係に到達する場合」を「並達8度」と呼び、これは禁則とされます。完全1度の場合も全く同じですし。完全五度の場合も同様で、これは並達五度Hidden Fifthと呼びます。

ただし条件がある

しかしこれはさすがに厳しすぎ。あんまりルールが増えると曲も作りづらい。そこで「並達の禁則」に関しては、少し条件を付け加えることになりました。

  • (1) 外声間でなければ構わない
  • (2) 外声間であっても、ソプラノが順次進行なら問題ない

ソプラノ・バスの間だけは注意しようねということ。そして「順次進行なら許可」というのはかなり有り難いです。これがないと、下のような定番パターンも作れませんからね。

並達8度OK

コードはVIの定番型、バスはルート弾き。ソプラノも導音→主音の定番型。人間にとって最も自然な音の流れと言っても過言でない。コレでダメって言われたら理論ってなんなんだという話です。ですからこういう場合はオッケー。

並達一度の禁則

もちろん8度じゃなくって、完全に音が重なる「1度」も、並達するのはダメです。まあなかなかそんなシチュエーションって、ないですけどね。ただし唯一、下譜のパターンだけは特例で可能です。

特例

やっぱりさっきと同じで、これは典型的な曲の終わり方のひとつですから、これはさすがに認めないと困るでしょうということで、例外的に許可されます。

また、あくまでも「並行して到達」がダメなのであって、「反行して到達」であれば許されるということは忘れないでいてください。そこは「連続」系の禁則と違うところです。

#2 II-Vの連結規則

さて、禁則の話はここまでです。最後に、非常に使用頻度の高いIIVの連結を見ておこうと思います。

ツーファイブ

IIを使う際には、上譜左のような配置が起こりやすいと「和声」では説明しています。そしてそこからVへ進むに、とある原則に従っていないことに気づきますか?

そう、「レ」の音がどっちのコードにも共通しているのに、それを保留していません。ソプラノが、勝手に導音に落ちちゃってます。
一見すると型破りですが、でも「和声」ではコレを良しとしています。むしろ推奨。これはもう単に聴覚上の聴き映えの問題ですね。変に「レ」を保つより、導音をソプラノで響かせた方が綺麗に聞こえますから。つまり、「最短経路の原則」ではなく「外声反行の原則」を優先させたということですね。

もちろん、上譜右のような連結も可ですよ。こちらの場合は、「レ」をきっちり保留しています。

短調でのトゥーファイブ

しかしこれが短調になると、上譜右の連結は使えなくなってしまいます。平行短調のAマイナーキーでその理由を確認してみますね。

短調でのツーファイブ

古典短調では、V番目の和音はメジャーコードに変える決まりでした。そうするとご覧のとおり、ちょっと前にやった「不自然な度数の禁則」に引っかかってしまいます。

まあ我々現代人の感覚からすると、右側の不気味なソプラノラインもまんざら悪くはありません。しかし、古典哲学からすると、こういうのは「流れが美しくない」と考えるのです。


さて、基本的な「原則」「規則」「禁則」「特例」は、これくらいです。注意して頂きたいのは、ここでは紹介しきれていない「特例」がいくつかあるということです。
今回は、この「哲学原則規則禁則特例」という、和声学の構成の成り立ちを追ってもらうことで、「和声」の哲学をよく理解してもらう。それを優先してお話を組み立てましたゆえ、瑣末な部分は少し切り捨てたところがあります。もし詳細に興味が湧いたのであれば、ぜひ書籍を買ってみてもらいたいと思います。

この節のまとめ
  • 外声が並行し、かつソプラノが跳躍進行して1・5・8度の関係に行き着くのは「並達八度」などと呼ばれ、禁則です。
  • 最終的には、聴覚上最も美しく聴こえる形が模範として採用されます。そしてそれは、状況により一意に定められないことがあります。

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