目次
1. 第二転回形
次は、コードの5thをベースが奏でる、第二転回形です。まずはまた配置の方から見ていきます。
必然的にベースとルートが4度を形成することになり、和音が本来の役割をまっとうできない非機能的なものになると説明されることがあります1。
Iの二転の用法
基本的な範囲での最も典型的なI²の用法は、Vの手前において滑らかなケーデンスを構築することです。
上のように、I2→V→I︎と流れていきます。この感じ、すごくクラシックらしい優等生な感じがしますよね。なんとなくVsus4と近いものがありますが、似て非なるものです。
sus4だと4度で音が3つ積み重なって、途端に硬い響きがします。これだとすごくポップスぽくて、クラシックらしさは無い。この差が重要です。もちろん他の配置も色々とあり得ます。ソプラノが「ミ」の位置にくるパターンもやってみましょう。
今度は開離配分で、前回紹介した「ダブルドミナントの一転」も盛り込んでみました。ミレドという綺麗な順次下行のラインを作るパターンも定番です。
I²の機能や解釈について
I²はVへ進むのが典型であり、古典派における“定型文”のひとつです。そしてこの時のI²の和声機能はドミナントと解釈するのが一般的で、“島岡和声”では「後続するVと一体不可分の関係にあり、両者合して1個のD和音として扱われる」と説明されます。そうでないと、上例のようにIIの和音やダブルドミナントからIへ進むことの説明がつかないですよね。なんなら書籍によってはディグリー振りさえもIでなくVとしているものもあります。
これは「数字付き低音」の方式で書かれた和音記号で、Vの横に6と4を並べることで、3rd5thが4th6thにずれていることを示しています。つまり、あくまでもこの定型におけるI²の正体はVsus4のようなものであって、これをIの一種とはみなさないぞというスタンスなんですね。
いずれにせよこのソドミという和音は、古典派音楽を特徴づけるもののひとつとなっています。
IVの二転の用法
IV²はさらに用法が限られていて、ダイアトニックコード間の接続ではI→IV2→Iという流れでしか使いません。
いわゆるトニック・ペダルとしての用法です。
Vの二転の用法
V²も、バスが「ドレミ」か「ミレド」で綺麗に順次進行させる流れの時にだけ使うというのが原則。無理やりVIに進むようなことはありません。
特に7th9thと積むと限定進行音でガチガチになっていくので、前後に計画性が必要です。このように「和音単体の機能的な弱さ」ゆえ、特にバスは前後と順次で繋がるか保留するかが望まれるというちょっと特殊な立ち位置にいるのがこの第二転回形です。今回は、この主要3和音での連結を紹介するに留めたいと思います。
2. 第三転回形
さあ、トライアドなら第二転回形で終わりですが、セブンスコードであれば7thをベースにとった第三転回形が作れます。基本段階で使うセブンスコードはV7のみですから、それだけ紹介しますね。
密集配分での標準配置が上のようになります。役割分担についても明快で、バスが7thで、上三声がRt3rd5thを担当。四和音で重複が存在しないのでシンプルです。
使い方もわかりやすい。V7の行き先はIしかないし、ドミナントセブンスの「ファ」の音は半音下降する原則ですから、必然的に進行先はI1に決まります。
特に上譜のようにIVから流れてくると、ベースが同音連打になって流麗ですね。
実例
Vの三転は、例えばベートーベンのピアノソナタ8番(悲愴)の第二楽章で象徴的に用いられています。
行き先はやはりIの一転。また、そこではやはり3rdの重複を回避している点も確認してください。ポップスでよく出てくるV / IVのコードは、実はこのクラシック時代から使われている伝統あるコードだったんですね!
さて、これで基本的な転回形は全て紹介できました。いずれもクラシックを特徴づけるような進行ばかりですから、覚えておけば即戦力になること間違いなしです!
3. 短調の場合
曲が短調である場合にも、長短の対称性により、やることはそこまで変わりません。
こちらは冒頭で使った音源にそのまんまフラット3つ付けて短調にしたもの。参考までに、長短2つ並べると下のようになります。
美しい長短のコントラスト。この対称性ゆえ、もろもろの導入法、短調でも同じものがほとんど通用します。ただ、短調ではIIがフラットファイブに、Vがメジャーに変わるなど完全に対称ではないため、そこでまた注意事項が色々と生ずることにはなります。
基本的にはやはり長調の時と同じく、クラシックでなければ見ることの少ないコードを活用することで、普通のポップス短調とは違った格調高いサウンドを生み出すことができるでしょう。
ここまでのまとめ
- コードの3rd5th7thをバスが演奏する形を、「転回形」と言います。
- どの転回形も、バスの流れをなめらかにするために使われることが多いです。
- 長調での長和音の[一転]は、3rdの音が重複しないように、配置を注意する必要があります。
- 長調での短和音の[一転]では、3rdの重複が許可されます。
- [二転]は、進行先が限定されていることが多く、型を意識しながら使うことが重要です。