目次
Ⅶ章では、いよいよ古典派クラシックの理論を解説していきます。とはいえ、本格クラシック理論の情報量の膨大さはすさまじく、紹介できるのはほんの一部にすぎません。それゆえ、まずはこの章が作られた目的をあなたと共有しておきたいと思います。
流派ごとの違いを理解する
まず重要な目的は、古典派理論と一般的な音楽理論の差異を明確にすること。むかしのクラシック理論と今の理論が「違う」ということは何となく理解していると思いますが、具体的にどう違うのか。そして「なぜ」違うのかという点についても可能な限りふれて、古典派理論の哲学というものを理解してもらいます。
クラシック調の作曲をできるようにする
2つ目は、「クラシック調の作曲」をできるようにすること。本当に完ぺきなクラシック同様の美しさを生み出すには、かなり長い修行が必要です。しかし中には、「そこまで本気でクラシックに身を捧げられはしないけど、クラシック“風”の曲は作れるようになりたい」という人もいるはずです。そういう人のために、クラシックのクラシックらしさとはどこから生まれるのかという基本を短時間でさらってしまう。それも目的の一つです。
ポピュラー音楽への応用法を知る
古典派理論の中には、「考え方だけでも知っておいた方がいい」「すぐ編曲に活きる」ような、“戦闘能力”の高い知識が存在します。しかし当然、本格古典派の書籍には「ポップスではこんな風に使えるよ」なんて話は一切登場しません。この章では、古典派の知識をどうポピュラー音楽に応用するのかについても、いくらか説明を加えます。
本格古典派を学びやすくする
もしかしたら、中には「過去に本格和声の本を買ったけど難しすぎて挫折した」という人もいるかもしれません。ここでクラシックの思想的側面や、基本的知識を学べば、改めてリベンジができるはずです。
あるいはこの章を読み終わったあとで書籍を読むにせよ講座をとるにせよ、“大枠”を理解しているだけでずいぶん学習はスムーズになります。そういった「今後の学習の支え」のためにもこの章があります。
つまり、ここでは可能な限りとっつきやすく、使いやすい部分をかき集めることで、まずはとにかくクラシック理論が持つ美しさの魅力をすぐに実践できる領域で体感してもらうことを意図してまとめました。
この章の役目はそういう「流派の架け橋」となることであり、あくまでも“入門”です。根本思想の理解に重点を置いていて、情報量は決して多くありません。ゆえに、ここで古典派理論の特徴を知ることで興味を持った方は、書籍等でさらに学びを深めていってもらいたいと思います。
1. クラシックの歴史
さて、まず前提として確認しておきたいのは、クラシックと言っても様々な時代があるということです。これは序論でも少し述べましたね。
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こちらはものすごくざっくりとした音楽史の流れです。現実は上のようにクッキリと様式を分けられるわけではないし、同じ時期でも作曲家によってスタイルは微妙に違うし、もっともっと作曲家はいるし、まあ詳しく話し出したらキリがなところです。
とにもかくにも古典派理論は文字どおり、「古典派」をメインターゲットにした理論ということになりますね。
そうなるとやはり、クラシックにおける古典派のポジションがどんなものであるかを、少しだけは理解しておく必要があります。いくらかサンプルを聴いて、勉強しましょう。
中世〜ルネッサンス
もちろん「バロック」より以前にも音楽発展の歴史がありますが、この章で扱う「和声」の理論よりも前の時代になるため、かなり軽めの紹介に留めます。この頃はまだ「メロディを重ね合わせて音楽を作る」という発想のもと対位法Counterpointと呼ばれる理論が発展していった時代です。
1200年ごろ 「ノートルダム楽派」
こちらペロタンという作曲家の作品。名前がかわいいですよね。ぺろたん。まだ「3度」が協和音程と認められる前の時代で、最初のハーモニーがいわゆるパワーコードになっている点はクラシック音楽史の歴史認識として重要です。意外にもリズミカルな6/8拍子ですが、これには理由があって、キリスト教の唱える「三位一体」の教義から、当時は3拍子系の音楽がオーソドックスだったのです。
1300年代 「アルス・ノーヴァ」
そんな「三位一体」から脱却して2拍子系が導入されはじめ、リズムが発展し、またそれに適合した楽譜システムが発展していったのがこの「アルス・ノーヴァ」の時代です。
この曲はこの時代の代表的な作曲家、ギョーム・ド・マショーの作品。シンコペーションが随所に見られますね。
1400年代後半 ルネサンス 「フランドル楽派」
15世紀にはイギリスとフランスで戦争が起こり、その結果として、フランスに「3度」のサウンドが本格的に流れ込んできたという歴史があって、この時期フランス・ベルギーあたりで活躍した作曲家たちを「フランドル楽派」と呼びます。クラシック音楽の発展には、宗教や政治の歴史が切っても切れない関係にあります。
こちらはジョスカン・デ・プレというフランスの作曲家の作品。ちょっとずつ和声感や「終止形」の感じが見え始めていて、我々のよく知るクラシック音楽へと近づいてきた感があります。
1500年代後半 ルネサンス後期
16世紀はルターの宗教改革でキリスト教に「プロテスタント」が生まれた頃で、ラテン語の聖歌に対してドイツ語で歌う「コラール」という賛美歌が登場しました。
こちらはモンテヴェルディの1607年のオペラ作品「オルフェオ」です。序論でも登場したモンテヴェルディは、正確にはルネサンスからバロックへと移る過渡期を象徴する人物です。
ヴァイオリンが誕生し、チェンバロが普及したとされるのがこの時代です。オーケストラの中にリュート奏者が交じっているのが面白いですね。長い時間をかけて、西洋音楽界は変化し続けました。ここまでの時代は一般に「古楽」などと呼ばれ、「クラシック音楽」という言葉の指す範囲からは切り離されています。
バロック音楽 (約1600-1750)
さて、そんな様々な宗教と政治の戦乱を経て、対位法がおよそ大成し、同時にコード理論が芽生えて音楽がまた変革していくのがバロックの時代です。
こちらはバッハの作品で、バロック音楽の特徴のひとつである、複数のメロディラインが独立して動くポリフォニーPolyphonyという形態が見える一曲です。2人のバイオリンが掛け合いながらそれぞれのフレーズを絡めあったり、あるいはバイオリンがゆったりしている間にチェロがフレーズを速弾きしたりしていますね。
「カノンのコード進行」でおなじみパッヘルベルも、この時期の作曲家です。このコード進行はどちらかというとバロック的な様式であって、古典派の楽曲でコテコテのカノン進行を見かけることはそんなにありません。
序論で述べたとおり、1722年にラモーが「和声論」を発表し、この辺りで長らく続いた「メロディの重なりがハーモニーを生む」というコンセプトから「ハーモニーからメロディを作る」コンセプトへの移行が決定的なものになってきます。