目次
これまでの3回で、「コードスケール理論(CST)」の概要、メジャー・ペアレント・スケールから生まれる7つの「ダイアトニック・モード」の確認、そして前回は様々なコードに対して対応するコードスケールを調べる練習をしました。
そこで分かったのは、7つのモードだけでは全然対応しきれないということ。もっとモードを増やしていかねばならないのです。
1. ペアレントスケールの候補
メジャースケールの次に何を親にするかといえば、もちろん「マイナースケール」が候補になるわけですが、「ナチュラルマイナースケール」を親にしたところで、コイツはメジャースケールを“平行にずらした”だけでしたから、新しいものは生まれてきません。
ご覧のとおり、エオリアン、ロクリアン、アイオニアン・・・見慣れたメンバーが、順番を変えて並んでいるだけ。まさに、コード編で平行調を同一視してまとめて論じてきたのと同じ話だ。
でも、安心してください。ナチュラルマイナーからシをナチュラルにした「ハーモニックマイナー」や、そこからさらにラもナチュラルにした「メロディックマイナー」がありますよね。その辺りが候補になってくるわけです。
スケール世界の整理
考えてみると「メジャースケール」と「ナチュラルマイナースケール」の差異は、ミ・ラ・シのフラット。どこにフラットをつけるかの選択から、23=8とおりのスケールが考えられるはず。そのあたりも、今のうちに整理しておきましょう。スケール同士の関係性をクリアにすることは、コードスケール理論の基本哲学ですからね。
こちらは、メジャーからマイナーに至るまでの8つのスケールの関係性をまとめた相関図。「ミクソリディアン ♭6」と「ハーモニックメジャー」は聞き馴染みが薄いと思いますが、「モーダル・インターチェンジ」の回で紹介はしましたね。
改めてみると、メロディックマイナーは「ミだけにフラット」なので、位置的にはかなりメジャー寄りの音階なんですね。それでもやっぱりこのミ♭は重要で、これ次第でトニックコードの長短が決定するので、名前としては「マイナー」を冠することになるのです。
・・・さて、このうちいずれを次の“親元”にするかなのですが、「Mixolydian」「Dorian」はやっぱりメジャースケールのスタート位置を変えただけのものなので、新しいモードは生まれません。そこで今回は、メジャースケールと実は一音しか違わなかった「Melodic Minor」をペアレント・スケールとしてチョイスしたいと思います。
2. Melodic Minorから生まれるモード
それではさっそく「メロディックマイナースケール」を親にして、そこから新たに7つのモードを作っていきます。
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ご覧のとおり、Minor Major SeventhやAugmented Major Seventhがいるので、新しいものがやってきそうな予感。またコードクオリティだけを見れば普通のものも、2・4・6度の取り方はこれまでと異なりますから、7つ全てが新しいモードになります。
メジャーのダイアトニックモードと比較すると、いずれもミにフラットが付くだけの一音差ということになりますので、そういうつもりで見ていくと、混乱しにくいですよ。
第Iモード:メロディックマイナー
メジャースケールは「アイオニアン」というモード専用の名前がありましたが、メロディックマイナーにはありません。ペアレントスケールも「Melodic Minor Scale」だし、そこから生まれる子供のモードも、「Melodic Minor」。マイナーメジャーセブンスの対応モードのひとつとなります。
第IIモード:ドリアン ♭2
第IIモードは、「Dorian ♭2」です。ネーミングは直球で、ドリアンの2番目の音がフラットになっているからです。メロディックマイナーのモードには、こんな感じの名付けをされたものがたくさんあるんですよ1。
「minor ii-V」を形成する際に、iiの段階でバリバリのメロディックマイナー調を出したいときに使うのが典型的なパターンです。
第IIIモード:リディアン ♯5
第IIIモードは、「Lydian ♯5」です。ルートに♭が付いたためにガラッとインターバル構成が変わり、コードもaugM7と対応しているなど、かなり特徴的2。
最初の5音が全て全音差というのもユニーク。パラレルマイナーコードで♭IIIを使用した際の候補モードのひとつになります。
第IVモード:リディアン ♭7
今度はまた直球なネーミングのパターンです。IVを司るモードでおなじみリディアンの、7番目がフラットしたからこの名前です。ただ、その短7度のおかげで、対応するコードがドミナントセブンスになりました。
そのためドミナントセブンス上での候補スケールとなり、利用価値は高め。それゆえ「Lydian Dominant」と呼ばれることもあります。こちらの方が、ドミナントセブンス上で使うということが直感的に分かりやすい良い名前だと思います。
第Vモード: ミクソリディアン ♭6
直球ネーミングその3。Vのモードでおなじみのミクソリディアンからの変形と捉えてこの名前。こちらもドミナントセブンス上での候補のスケールになりますね。前回モードをあてられずに失敗したIII7のような、マイナーキー系のドミナントセブンスで候補となるスケールです。
またエオリアンのm3をM3に変えてもこのスケールに至るため、「Aeolian Dominant」という別名もあります。こうした「名前かぶり」はCSTにおいて何度も発生するので、どちらかをまず優先して覚え、そのあと別名も把握してあげると、スケールどうしのキャラクターの繋がりというのがより頭の中で組織化されるでしょう。
第VIモード: エオリアン ♭5
直球ネーミングその4。エオリアンの5番目が落ちたから、「Aeolian ♭5」です。5thが落ちるので、対応するコードクオリティはHalf Diminishedになります。
Half Dimに対応するモードといえば、メジャーの第VIIモード「ロクリアン」がありました。「エオリアン ♭5」と「ロクリアン」はとても似ていて、差は第2音が「短2」か「長2」かの違いのみです。それゆえこのモードを「ロクリアンの第2音が上がった」と捉え、「Locrian ♮2」ないし「Locrian♮9」と呼ぶこともあります。
第VIIモード: スーパーロクリアン
最後はかなり変化球なネーミング。メジャーの第VIIモード「ロクリアン」と比べると、4thが落ちて「減4度」というレアなインターバルになっています。「長3度」と異名同音ですが、3rdは「短3度」が先に陣取っているため、この音程は「減4度」と呼ぶべきなのです。
「ロクリアン」は完全4度が唯一の安定した音程でしたから、それすら失ったこの状態は、もはやグラグラです。不安定なロクリアンのさらに上をいくので、「Super Locrian」です3。
3. 七つのモードの関係性
ミにフラットが付いたことでネーミングがややこしくなりましたが、結局ほとんどの名前は、メジャーの七つのモードからの変形でしたね。そう思えば怖くない。
メロディックマイナーのモードについては、全てCをルートにして比較した方が分かりやすいでしょう。またひとつにまとめてみました。
度数に忠実に楽譜をとると、「Lydian Dominant」ではシャープとフラットが同在することになります。
対応するコードクオリティがかなり個性的。メジャーセブンスと対応しているものが、ここにはひとつもないんですね。ハーフディミニッシュやドミナントセブンス上でのスケール選択肢が増えたようなイメージです。
モードのネットワーク
新しい音階が増えたことで、音階どうしのネットワークの密度が増しました。例えば「7つの教会旋法」の世界観においては、エオリアンよりも一段階くらいのがフリジアン、その次がロクリアンでしたよね。
しかし先ほど、「エオリアンに♭をしても、ロクリアンに♯をしても、このエオリアン ♭5に辿り着けます」なんて話がありました。つまり、エオリアンとロクリアンの間にいるのは、フリジアンだけではないということに気づく。いわば、新種の生物を発見したわけです。
フラットの総数はフリジアンと同じだけど、5thの方に先にフラットがついたから、コードクオリティはいち早くハーフディミニッシュに変わっている。新しいキャラクターの獲得です。
以前「7つの教会旋法」を縦にズラッと並べたときには、「こんな風に音階どうしが繋がっているのか〜!!」という感動があったはずです。いま新たに7つのモードを学んだことで、縦だけでなく横にもネットワークが広がっていくのです。
縦も広がる
もちろん「横」だけでなく、「縦」も広がります。これまで最も明るいキャラクターの音階といえばリディアン、最も暗いといえばロクリアンでしたけど、今回それよりもさらに強い「リディアン・オーグメンテッド」と「スーパーロクリアン」を知ったんですからね。
メジャースケールやメロディックマイナースケールといった“おなじみの音階”たちを分解していくことで様々なスケールを見出し、それらの関係性を把握しながら網羅していくことで、音階の世界をまとめあげていく。これがコードスケール理論のやろうとしていることです。
こうした音階を調性音楽の中でどう生かしていくかが肝心の部分になっていきますが、「メロディックマイナー」をやったなら、「ハーモニックマイナー」もやらないと収まりが悪い。次回はさらに7つのモードを増やしていきます。
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