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テンションコード ❷ アヴォイドノート

3. 12音の分類

注意する音をまとめてくれたブラックリスト。そう捉えれば、まあ無碍に切り捨てることもないかという気持ちになってきますね。もう少しジャズ理論の話を聴いてみましょう。

12音をアドリブ演奏という観点からカテゴライズしていくことを考えると、おおよそ以下のような系統図で音が分類されていきます。

①スケールの構成音か ②コードトーンか ③機能を阻害しないか

まず第一に、何のスケールで演奏するのかは決まっているのが大前提です。それでスケールに含まれない音は除外され、それらは本当に装飾的に使う場合を除いて使用しないのが原則となります。例えばCメジャースケールで演奏する場面なら、黒鍵の5音がまず仲間外れになる。これは当然のグループ分けですね。

鍵盤の画像:Cメジャースケールにて。白鍵7音と、黒鍵5音でグループが分かれる。

次に、その場でのコードも確定していることが前提になるので、コードトーンかどうかでまたグループが分かれる。例えばコードがG7だったら、g,b,d,fの4音がコードトーンとなり、残り3音がノンコードトーンに分類されます。

鍵盤の画像:Cメジャースケール,G7にて。g,b,d,f音とc,e,a音でグループが分かれる。

そして最後の分岐がいよいよ安定感やコード機能を阻害しないかという点になり、ここでOKとされたら「アヴェイラブル・テンション」、NGとされたら「アヴォイド・ノート」となります。例えばバークリー系の理論書では、次のような説明がなされます。

The Avoid Note, if used harmonically, will interfere with, or destabilize the chord sound and is therefore avoided harmonically.

アヴォイドノートは、和音的に使われた場合には、コードサウンドの邪魔をするか、不安定にさせるもので、それゆえ和音的に使うことは避けられるものだ。

Nettles, Barrie. Graf, Richard. “The Chord Scale Theory Jazz Harmony” (p.26).

演奏に全く使えないわけではなく、“harmonically”に使うのは避けよという考えである点は大事なポイントですね。アヴォイド・ノートはコードに乗せて一緒に鳴らすことは許されず、メロディラインの一部で短い時間鳴るくらいなら許される……というような線引きをされます。

Cメジャースケール・G7の例で言えば、cの音がコード機能を阻害するものとして、アヴォイドに指定されます。

鍵盤の画像:Cメジャースケール,G7にて。e,a音はアヴェイラブル・テンション、c音はアヴォイドとなる。

これで12音が全て分類される。コードを弾く人も、メロディフレーズを弾く人も、どの音をどんなふうに使ったらいいのかが分かる。みんなで楽しくアドリブ・セッションができる。これがジャズ系理論の開発したテンション・アヴォイド論の概観です。

4. アヴォイドとされるもの

では、最後の「コード機能を阻害しないか」のジャッジはどのようにして決まるのか? 肝心のところを解説していきます。

アヴォイドの原則

アヴォイドとして選ばれる音の大原則は実はたったひとつしかなく、それが先述のとおりコードトーンの半音上に乗るものです1

CΔ7のアヴォイド
Em7のアヴォイド

こちらはIΔ7IIIm7の例。改めて考えると、メジャースケールなら「全全半全全全半」という段差の性質上、「スケール内の音で、半音上からかぶさる」という条件を満たす可能性があるのはファ・ドだけだということが分かります。

ノンダイアトニックコードまで視野に入れるともう少しパターンは増えますが、ともあれ原則だけで言えば、話は本当にシンプルなのです。

保守派の追加アヴォイド

しかし、ひとつだけ例外的にアヴォイドとジャッジされるものがあって、それはIIm7のコードの時に発生します。

IIm7ではシがアヴォイド

IIm7のコードでは13thのテンションが、コードトーンの半音上ではないにもかかわらずアヴォイドに指定されます。なぜかというと、レ・ファ・シが揃うとサウンドがV7にかなり近くなり、「サブドミナント機能に混乱をもたらす」からダメだという風に説明されます2

これは本当にジャズらしい発想で、ジャズの定番といえば2-5-1。IIm7は引き立て役なので、コイツがドミナントっぽいサウンドになったら台無しだと考えたのです。

IIm7(13)の魅力

しかしこれは別に半音上からかぶさっているわけではないから、サウンドとしての濁りもキツくなく、他のアヴォイドとはずいぶん状況が異なる存在です。実際にこの「レ-ファ-ラ-シ」という和音はすごく魅力的なサウンドを備えていて、厳格なクラシックにおいても使用されますし、ポップスでももちろん大ヒット曲の用例が存在します。

こちらはビートルズの代表曲「イエスタデイ」。“I don’t know”と“Now I long for yesterday”のところで、メロディが思いっきり13thの音を取っています。もしポール・マッカートニーがアヴォイドの理論に囚われていたら、この名曲は生まれなかったということですね。

IIm7のアヴォイド論争

イエスタデイの例を聴いてもやっぱり、シが乗っただけでS機能に聴こえなくなってしまうかと言われると、かなり微妙なところです。

こうした点を配慮し、現在ではジャズ系理論書の中でさえも「問題なく扱われるケースが増えている」など肯定的に扱われたり、あるいは「後続がV7の時だけはアヴォイド」という風に限定する人もいます3

自由派ではこういった容認派の見解を支持し、今後「アヴォイド」と言うときにはこれは含めないものとします。これを除外してしまえば、「アヴォイドとなりうる音は、コードトーンの半音上の音だけである」というシンプルな原則を貫くことができます。

アヴォイドの免除

そんなわけで、原則は「半音上はダメ」なのですが、コードクオリティがドミナントセブンスの時は例外的にいくつかの半音被せが許可されます

ドミナントセブンスコードにおいては、コードクオリティを確定する大事な3rdを上から邪魔する11thだけがアヴォイドで、他は全て許可されるのです4

III7の場合、ファ・ドもOK

こちらはIII7の場合。ラはアウトですが、しかしIIIm7の時にダメと言われたファ・ドは一転してOKとなります。これはつまり、アドリブの場でコード譜に「III7」と書いてあるとき、軽い気持ちでファ・ドを足しても場が乱れる心配はないということを意味します。

IVΔ7III7(-13)VIm7

こちらは4-3-6の進行で、しれっとIII7にドの音を紛れ込ませた例。強烈な濁りではありますが、ドミナントセブンス自体が強い濁りを持っているので気になりません。またソ-レのふたりが織りなすトライトーンがVImへと導くパワーも強いものがあるので、ドが加わっただけではこのコードの機能に影響は及ぼされないだろうという評決が下された……といったところでしょう。


そういうわけで、「スケール内の音か否か」でまず分岐があって、スケール内の音がAvailableかAvoidかは以下のようなフローで決定されるになります。

フローチャート

テンション/アヴォイドというと頑張って数字を暗記するイメージがあると思いますが、それは即興セッションをするプレイヤーが各コード上での楽器の指さばきを習得するためにすることであって、作曲に利用するのであれば「数字丸暗記」というプロセスを辿る必要はありません。

もし覚えるのなら、逆の順序がよいです。すなわち、まず作曲/分析の際に良いサウンドに出会う。そのサウンドを記憶しておくために、数字で覚える。それなら数字とサウンドが一体の情報となって、“生きた知識”として身につきます。やがてコード譜を読んだだけで、頭にサウンドが思い浮かぶようになるわけです。

「テンション」という語の広義/狭義

最後にひとつ、テンションという言葉の語義のぶれについて補足させてください。

「アヴェイラブル・テンション」という語はコード理論の中核をなす言葉ですが、それにしてはちょっと言葉として長すぎます。そこでこの語が略されて「テンション」と呼ばれるケースが多々あります。もともと「テンション」はアヴェイラブルなものとそうでないアヴォイドとを包括する言葉ですが、それよりも狭義の意味で使われるということです。

「テンション」の中に「(アヴェイラブル・)テンション」と「アヴォイド」が内包される図式「テンション」のうち一部だけが「テンション」と呼ばれる

一見するとカオスな構図ですが、これは「パンダ」のうち「ジャイアント・パンダ」だけをみんながパンダと呼んでいて、それで世界がうまく回っているのと同じ話で、日常会話レベルではこの広義/狭義のぶれによって齟齬をきたすことはまあ起きないだろうと思います。

「パンダ」の中に「(ジャイアント・)パンダ」と「レッサー・パンダ」が内包される図式「パンダ」のうち一部だけが「パンダ」と呼ばれる

しかし場合によっては、例えば「このテンション(広義)はアヴォイドになる」と言ったときに「テンション(狭義)がアヴォイド?変な言い方だね?」とギクシャクする可能性がゼロではないです。もしこのような煩わしさから逃れたい場合、「アヴェイラブル・テンション」と「アヴォイド」を包括する上位語として「ノンコードトーン」の語を用いると、まあ大概のケースで問題なくいくと思います(実際にこの記事の上の図画でも、ノンコードトーンの語を利用しました)5

「ノンコードトーン」の中に「テンション」と「アヴォイド」が内包される図式

ここからの道のり

さて、これで慣習的なアヴォイドへの理解は十分深まったと思います。ただ実践の上ではもういくつか意識しなければならないことがあって、次回はそれを扱います。

まとめ

  • テンションには、コード感への影響が大きいものと小さいものがあり、前者は即興演奏の場では気軽に使うことができません。それを「アヴォイド」と呼びます。
  • アヴォイドは、端的にまとめてしまえば「スケール内のテンションのうち、コードトーンの半音上に乗るもの」です。
  • ただしドミナントセブンスコードにおいては、Rt5thの半音上に乗るテンションがアヴォイドから除外されます。
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