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さらなる記号化の推進
各コードにオーグ、ディムの語を元にした愛称が与えられたわけですが、楽譜中や文章中に小さな「aug」や「dim」を書いたり印刷したりするというのは、手間だし技術的にも大変だったのではないでしょうか? 理論家たちは彼らにシンプルな記号を与えました。それが「プラス」と「マル」です。
これはシンボリックで、アルファベット3文字が並ぶよりも美観に優れます。ただしaug/dimが英単語の意味から直接来ていたのと比べると、プラスはともかく、マルは意味がイメージしにくいのが欠点ですかね。こうした表記が、19世紀で既に見られます。というか古い時代だったからこそ、印刷技術の制約から記号化せざるをえなかった可能性もありますね。
augがプラスならdimはマイナスにして欲しかったですが、そこもきっと印刷やインクの精度問題もあったのでしょう…。この文献もよくみると、マルというより数字の「ゼロ乗」に見えます。パソコンなんてもちろん無い時代のことですから、「何とか印刷できる記号を選んできてまかなった」感じがヒシヒシと伝わってきます。
セブンスコードのプラスとマル
このプラス・マルのシステムはセブンスコードにも当然適応可能です。また先ほどの「ハーフディミニッシュ」には、その名にふさわしく、ディミニッシュのマルを半分に割ったような記号を使用します。
ハーフディミニッシュの記号は、パソコン上では「φ(ファイ)」や「ø(スラッシュつきオー)」などで表現されます。またディミニッシュのマルについても、単に記号の「○」が使われる場合もあれば、全角文字に親しみのない英語圏では「o(小文字のアルファベットのオー)」や「º(ディグリー・シンボル)」が使われたり、または「O(大文字のオー)」を上付け文字にして表現する人もいます。
3. さらなる簡略化と混乱
さらにややこしいことに、「Δ・o・ø」の記号三人衆は、「7」を省略する書き方もあります1。
これは、「セブンスコードが当たり前」のジャズ界で、いちいち7を書く必要性が欠落した結果、省略されていったものと推測されます。クラシック流派にはない考え方ですね。決して一般的な表記とは言えないですが、ジャズ系の楽譜では、特に断りなくこの「7の省略」が行われている可能性があります。いよいよ混迷がきわまってきましたね。
加えてdimに関しては、このマルバージョンに限らず「dim」の表記の方も、これでディミニッシュセブンスのことを指している場合があります。
dim、三和音か四和音か問題
そうするとここで明確な混乱がひとつ生じます。「dim」や「o」というコードシンボルが三和音を指すか四和音を指すのかが人によって異なるのです。
クラシック系の色が濃いと三和音、ジャズ系が強いと四和音というのが傾向として言えますが、あくまで傾向にすぎません。この点に関しては、他の人とのコミュニケーションにおいて留意しておかねばならない点となります。
誤解の生じ得ない表記
少しでもミスコミュニケーションを避けたいのであれば、「マイナーフラットファイブ」と「ディミニッシュセブンス」という呼び方をすれば、間違いなく相手に意図を伝えることができます。
が、依然として相手が「dim」という表記を発信してきた場合には、一考する必要があることに変わりはありませんね。
4. 表記のまとめ
さて、表記のバリエーションはこれで全て紹介しましたので、いったん表にしてまとめます。「メジャー=無印」と「ドミナントセブンス=7」はどんな流派でも共通の書き方なので、それ以外のところだけまとめますね。
方向性 | min | aug | dim | M7 | m7 | mM7 | dim7 | m7(-5) | 7(+5) |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
①特徴なし | m | (♯5) | m(♭5) | M7 | m7 | mM7 | dim7 | m7(♭5) | 7(♯5) |
②+- | 〃 | (+5) | m(-5) | 〃 | 〃 | 〃 | 〃 | m7(-5) | 7(+5) |
③aug/dim | 〃 | aug | dim | 〃 | 〃 | 〃 | 〃 | m7(-5) | aug7 |
④記号特化 | – | + | o | Δ7 | -7 | -Δ7 | o7 | ø7 | +7 |
⑤7省略 | 〃 | 〃 | m(♭5) | Δ | 〃 | -Δ | o | ø | 〃 |
もちろん、これらが部分的に混在した表記を利用する場合もあります。このサイトも、メジャーセブンスには「Δ」の記号ですが、マイナーが「-」は見にくさがあるということで「m」を採用していますね。
これは同じ流派の中でも表記が異なることは十分あり、どれかの勢力が特別に強いということもありません。本格的なジャズ理論書では④のような記号化の傾向が強く、ライトなポピュラー理論書では①のような平易な表記が多い気もしますが、断言できるほど顕著な隔たりは感じません。伝える相手に応じて使い分けられるのが理想です。
序論で音楽理論は音を言語化するツールと説明しましたが、まさに言語だからこそ、このように“方言”がたくさん生まれている。これはもう、仕方のないことです。むしろ、数百年の月日・多数の国を渡ったのにこのくらいのブレで収まっててよかった! とポジティブにとらえましょう\\\\٩( ‘ω’ )و ////
このサイトでの表記
このサイトでは基本的な方針として、以下の表記を使用します。
min | aug | dim | M7 | m7 | mM7 | dim7 | m7(-5) |
---|---|---|---|---|---|---|---|
m | + | m(-5) | Δ7 | m7 | mΔ7 | o7 | ø7 |
全体的に記号が多めで、視認性と簡潔性重視な方向性です。どの表記が強いかというのは、手書きなのかパソコンなのかといった環境によっても変わってきます。あまり優劣論にこだわりすぎないのがよいでしょう。
5. 鍵盤で一覧する
先ほどは五線譜でまとめましたが、度数関係のややこしいところは鍵盤で見た方がイメージが掴みやすかったりもします。鍵盤で一覧チャートを作りしょう。
sus2やメジャー・フラットファイブなど、細かなところは割愛しました。このタテヨコのグリッドが大切で、やっぱり度数の構成要素はそう多くない。先ほども言いましたが、その組み合わせによってコードネームが生まれているという認識が大切です。
そしてもちろん、構成要素の丸暗記ではなく、定番のディグリーや音楽的効果とセットで覚えていくということが何より重要ということを忘れないでください。実践の中で少しずつ習得していった方が確実に“生きた知識”になります。
まとめ
- 変化系のコードには、歴史の中で様々な表記や名前が与えられました。
- augは「+」、dimは「o」、マイナーセブンスフラットファイブには「ø」の記号が与えられています。
- 「7」を省略する表記とそうでない表記とでは誤解が生じうるので、注意が必要です。
- それぞれの表記が一長一短なので、好みのものを使うとよいでしょう。