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コードの機能(機能和声)

6. 聴いて比較

さてそれでは、ここから怒涛の視聴タイムです!! 4コードのループで、TDSの違いを感じてみましょう。今回は単一のメロディを使い回して、さまざまなコード進行をあてていくことにします。

通常リハーモナイズは適当にやると響きや流れが変な感じになるリスクがあるのですが、今回そこのところはメロディをうまい感じに調整して、どの進行にも対応できるようにしました。全く同一のメロディが、コード進行次第で異なった雰囲気になるというところをぜひ体感していただきたいです。

それぞれの質感の違いを判別すると言うのは現段階だと難しいかもしれませんが、中にはなんだか聴いていて好きだと感じる進行があるはずです。ぜひそういうお気に入りの進行を見つけて、曲作りに活かしてほしいと思います。

TSDT

Tで始まりTで終わる。これは一番安定的な進行の枠組みです。中でも機能を“順行”するTSDTは最も基礎的な流れであり、多くの人にとって自然に聴こえるはずです。

TSDTの組み合わせはたくさんありますが、中でも代表的なものをピックアップしました。明るい・暗いといった雰囲気に関してはそれぞれに異なったものがありますが、しかし和音の機能面での流れ、つまり緊張-弛緩のストーリーに関して言えばみな同じタイプの進行となります。

TTSD

同じ機能順行でも、頭に2回連続でT機能のコードを置くとまた緊張-弛緩の流れ方を変えることができます。

特に1-6-2-5は古きよきジャズで定番とされている進行です。また1-3-4-5に関して、上のようなケースだとこのIIImT機能だと十分にみなせるでしょう。

ループの繋ぎ目である4番目のコードをD機能にすると、次のループへと突入する際に勢いがつけられる良さがあります。

TDST

機能逆行であるTDSTは、緊張-弛緩の描き方が大きく変わります。始まりのTからいきなりピークであるDに達し、そこからゆっくりと緊張を緩めていくという流れになります。

特にIVIのフワリとした着地は魅力的ですね。

行ったり来たり

もちろん機能のサイクルを順行/逆行でぐるぐる回るだけではなく、TDTSTSTDのように方向を変えて行ったり来たりすることも可能です。

1-5-6-4と6-4-1-5はUSポップスの定番で、Wikipediaの記事が立てられているほどです。

SDT-*

古典的なクラシックでは避けられる型ですが、ポピュラー音楽ではSから進行を始めるのも非常に一般的です。 安静な状態から始めるのではなく、ちょっとぐらついた状態から始める。そうすることで、不安やためらいだったり、なんなら失恋の切なさや希望だったりと、複雑な心情にフィットするような情感を創出することができます。

ここまで聴いてきたI始まりの「明るくて安定的」ともVIm始まりの「暗くて安定的」とも違う、ちょっとフワッとした始まり方をしているのが分かるでしょうか?

2-5-1はジャズにおける最大の定番です。あるいはダンスミュージックやエレクトロニカなどでは、4-5-6は非常にポピュラーな進行のひとつ。J-Popだと、4-5-3-6は「王道進行」と呼ばれる人気ものです。今回の4-5-3-6のケースでのIIImTDか本当に微妙なところです。結局のところ、その「どちらとも言えなさ」こそがこの進行の魅力と言えるでしょう。

STD-* / SSTD

Sから始めて、かつ機能を逆行するとSTDという動きになります。

「不安げな感じで始まって、いったん落ち着いたと思ったら激昂する」というような流れですから、なかなか情緒的、激情的と言えます。また2-4-1-5はSが二連続するのが特徴で、Tに至るまで穏やかな流れが続くことになります。
この手の動きはクラシックやジャズではあまり一般的でないですが、近年のポピュラー音楽では人気を獲得しつつあります。

DTS-*

進行をいきなりDから始めるというチョイスは、決して普通ではないものの、“初っ端からエンジン全開”という感じのパワフルさはあって、またサプライズ感もあります。

あまり実例を聴く機会が少ないと思うので、VIIImから始まる曲のプレイリストを用意しました。

5-6-4-1, 3-6-4-1, 5-4-3-6といった進行が使われています。

T不使用

T機能をあえて使わないという戦略も、ポピュラー音楽においては非常に有効です。高揚して、クールダウンしてを繰り返しながらも、完全いに着地はしない。そうすることで、延々と緊張状態を続けることができます。

こういう場合またもIIImの立ち位置は微妙なところで、Tとみなしても不自然ではありません。ただいずれにせよ、着地を明確に演出できるIVImが存在しないというところが重要ですね。この終わりがなく延々と続く感じは、典型的にはエレクトロニカ、ドラムンベース、テクノ、ファンク、ヒップホップといったループ指向の強い音楽で好んで利用されます。

例えば『Super Shy』はIIImIImを、『Good Times』はIImVをひたすら繰り返します。この解放されない緊張感は表現としての活かし方がたくさんあって、広大な風景のスケール感だったり、ドリーミーで曖昧な空間性だったり、あるいはオールナイトで終わらないパーティーだったり。

全部紹介しきれません

以前紹介したとおり、4コードで1サイクルというのがポピュラー音楽の定番スタイルのひとつ。そうすると、この基調和音の組み合わせだけでも単純計算で6^4=1296とおりの進行が考えられるということです!!

だから初期の曲作りでは、まずこの基調和音の響きをよく理解することをオススメしたいです。上に挙げたコード進行たちでも十分かっこいい曲になっているし、色々バリエーションも作れていますよね。変にたくさんコードを知っている必要はないのです。

機能チャート

改めてコード進行と機能のサイクルをチャートにしてまとめると、下図のようになります。

機能チャート

この図において「左から右」へ進む“機能の順行”は総じて聴き心地がよく、注意すべきは前回も述べたIIImIのみです。それをリマインドする意味をこめて、この図ではそこだけラインを繋がないでおきました。
「右から左」の進行や、「同機能内での移動」に関しては、使いやすいもの/使いにくいものが入り混じっているのですが、とても長い説明が必要になるので、現状まだ解説はしないでおきます。このあたりに関してもI章後半の「接続系理論」で詳しく見ていくことになります。

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