目次
4. ドラム以外のシンコペーション
ここまではキックとスネアの打点を見てきましたが、当然打楽器以外のパートでも、シンコペーションはあります。
こちらは比較的シンプルなアクセントのままの状態です。バックビートが当たり前となった今では、これは取り立てた特徴のないリズムと言えます。そこでドラム以外の全てのパートを、1/8グリッドで適度にシンコペートさせてみます。すると……
こんなふうになりました! アップビートを強調する打点が増えて、全体的に軽快さが生まれました。各楽器の全ての打点において、シンコペートするかどうかの選択肢がある。そう考えると、リズム・アンサンブルを構築するパターンの組み合わせはほとんど無限のように存在しています。本当にリズムの世界は奥深いんですよね。
主旋律の1/8シンコペ
まずメインメロディにシンコペーションをかけた楽曲の例を見てみましょう。
モーツァルトの交響曲25番は、クラシック界での有名なシンコペーションの用例です。いちばん出だしの「タタータータータ」というフレーズが、最初の1打目以外すべて裏拍で鳴っていますね。古典クラシック曲の始まりとしてはなかなかインパクトのある部類ではないでしょうか。
また、その後に来るフレーズは逆にかなり強拍を強調したドッシリめのフレーズになっていて、そういった表と裏のコントラスト構成が見事です。
時代が変わりましてこちらはビートルズの『If I Needed Someone』。イントロのギターを聴くとそのリズムは「タタータータータ」となっていて…これはモーツァルトの交響曲と同じですね! 人類は200年経ってもまだ同じリズムに魅了され続けているわけなのです……。この曲はメロディに裏拍のシンコペーションが非常に多く、シンコペーションのノリを学ぶのにうってつけの一曲となっています。
YOASOBIの『群青』は、サビのシンコペーションがとても顕著な曲です。「ままに」「描く」「自分」など、3音の区切りを基本として進みますが、その始まりと終わりがどちらも裏拍です。
強拍である1,3拍目の打点がスッポリ抜け落ちているのが分かります!非常に特徴的なケースです。1番サビはドラムもゆっくりで落ち着いた雰囲気ですが、実はメロディは裏拍を強調するリズミカルな形になっている。そのコントラストが楽曲の魅力になっています。
伴奏隊の1/8シンコペ
当然メインメロディに限らず、伴奏隊のシンコペーションもリズム・アンサンブルを構成する上での考えどころです。
サカナクションの『ミュージック』は、4つ打ちで安定的に刻まれるキックと、その隙間を埋めるように裏拍多めで入っていくシンセサイザーとのコントラストが魅力の一曲。
メロディも、サビの「消えた」に代表されるようにシンコペーションが多く、キック以外の全員がアップビートをプッシュする演奏になっています。
こと4つ打ち音楽においては、シンコペーションはキックと打点をずらすことを意味するというのは実はけっこう大事な認識です。というのも、打点が重ならないということは、互いの音を潰し合わないことを意味します。ダンスミュージックにおいて、キックの迫力はとても重要です。一方で歌モノなら、歌だってしっかり聴かせたい。だからキックとボーカルのどちらも譲りたくない場合には、打点をずらすことが最強の対策になるわけです。
1/16グリッドのシンコペ
上の曲たちはみな1/8グリッドでのシンコペーションでしたが、1/16でずらせばさらにスリリングで刺激の強い感じのメロディになります。
ファンク系の例
『Uptown Funk』は16分のシンコペーションが散りばめられたファンキーな一曲です。まずイントロは、バックビートを刻むクラップと、軽快なカッティングギター、そして「ダッダーッダ」というダンディーなボーカルベースから成りますが、ギターとボーカルベースのフレーズは、1拍を3:1に分ける16分ウラのシンコペーションが活用されています。
この「タッッタ」という3:1分割はそのままボーカルの出だしにも引き継がれ、”This hit, that ice cold, Michelle Pfeiffer, that white gold”のところはみなこの形のシンコペーションが繰り返されています。
そして象徴的なのはサビ前のビルド部分で、連呼される“’Cause uptown funk gon’ give it to you”や終盤の“Saturday night and we in the spot”はどちらもフレーズの終わりが16分のウラとなっており、シンコペーションでリズムを跳ね上げて終わるような構図になっています。
単語の抑揚や区切りから考えると、ここでもイントロと同じ3:1分割が引き続き活用されているとも言えますね。”give it to you”のyouで16分ウラをスパコーンと強調して、4拍目は空白。シンコペーションの着地が1拍のあいだ宙吊りになることで、フレーズが宙に放り出されて終わるような独特の浮遊感・緊張感をもたらしています。
このように、1拍を4分割したうちのラストにアクセントをつけて、かつ後ろに空白を設けてシンコペーションを浮き立たせるリズムは、スローテンポのダンス音楽における“黄金律”のようなもののひとつで、ヒット曲での用例が散見されます。
どれもBPMがそこまで速いわけないのに、何か共通した軽快さがある。その理由の所在を探したとき、この「拍頭の直前の16分ウラ&その後に空白」という共通項が浮かび上がってきます。ぜひ拍のグリッドを刻んで、曲のメロディのどこに16分のシンコペーションが隠れているか、見つけてみてください。
EDM系の例
aespaの『Supernova』のサビ(0:42-)は、16分のウラばかりに打点がある、極めて特徴的な一曲です。
ドラムのリズムパターンの方は1/16グリッドの要素が全くなく、裏拍のアクセントなどもない、本当にまっさらな4つ打ちのバックビートです。しかしそこにボーカルとシンセが「ッタッタ」という16分のウラで入ることで、強烈なコントラストを作る。リズムの安定と不安定の役割分担が明確に設計されていることが分かります。
なお時々挟まる「ワッ・アッ・オー・ッエイッ」という特徴的なリズムも、先ほど“黄金律”と呼んだ形の16分シンコペになっていますね。はじめのワッ・アッ・オーの3打はきちんと8分のグリッドに乗せておいて、最後で後ろにずらして裏切る。このメリハリがクセになるわけです。