目次
3. シンコペーション
ここまでで分かったとおり、「強拍からアクセントをずらしたリズム」というのが、ジャズ・ロック・レゲエといった近現代のポピュラー音楽の特徴と言えるわけですが、そのずらし方というのは実に様々。代表的なものを見ていきます。
弱拍のシンコペーション
こちらは、弱拍である4拍目のところでみんなが音を伸ばし、そのまま次小節の1拍目を潰しています。コード進行の変わり目もそのまま後ろにずらしています。
こんな風に、弱拍にアクセントをつけて後ろのアクセントを飲み込んでしまう手法のことを、シンコペーションSyncopationと言います。とても重要な用語です。
裏拍のシンコペーション
「強・弱拍」よりもさらに細かい視点である「表・裏拍」でも同じことが言えます。
裏拍の方が刻みが細かいですから、圧倒的に複雑になりました。このリズムでは、1拍目ウラ、2拍目ウラ、4拍目ウラにアクセントがあります。そして4拍目ウラが伸びた結果、やはり次小節の頭を潰してコードチェンジが遅れています。
「シンコペーション」は元々は「弱拍」にアクセントを置く技法を指す言葉でしたが、現在は一般的にこの「裏拍」にアクセントを置くものも同様にシンコペーションと呼びます。
何拍目のウラを押すかでまたノリが変わりますし、ドラムだけとかメロディだけを変えるというパターンもあるわけですから、可能性はとても幅広い。クラシックぽくない新鮮なリズムを生み出せるのがシンコペーションの魅力です。
4. アンティシペーション
先ほどは「音を伸ばして、次の展開を先延ばしにする」という形でしたが、「先延ばし」じゃなくて逆に「前のめり」にするというリズムの変え方も、当然ありえますよね。
こちら、楽器隊が「1,2,3,4」の「1」を待てずにフライングしたような演奏になっているのが分かるでしょうか? 本来鳴ると予期される1拍目の頭よりも手前に音がずれこむことで、まさに“前のめり”な姿勢がリズムの時間的構造によって表現されることになります。
これは曲想としては必然的にエネルギーが有り余るような情感、疾走感のある感じをもたらしてくれます。ロックでは非常に重宝され、頻用されるテクニックです。もっと極端にやってみましょうか……
かなりの疾走感です! このように「手前へと食い込む」形は、アンティシペーションAnticipationと呼ばれます。一応念のため、アンティシペーションを一切使わずキッチリ表拍に合わせた演奏もしてみますね。
「何もしていない」感がすごいです。ただコードを弾いているだけという感じで、何もかっこよくない。逆にいうと、ただリズムを前のめりにするだけであんなにロックっぽいエネルギッシュさが出るということです。
リズムが食う
アンティシペーションはリズムが手前に食い込みます。そこから、日本ではよくアンティシペーションのことを「リズムが食う」とか「食ったリズム」などと表現します。
例えばバンドでアレンジを話し合うときに、「A・Bは全部小節頭を食って、サビの最初は食わずにしっかり1拍目頭でいこう」なんて言ったりするわけです。
実際の例
アンティシペーションの実例を聴いてみましょう。
こちらはリズムの表・裏の使い分けが面白い例。バンド隊の基本演奏は表拍にしっかり乗っていますが、歌は冒頭からさっそくアンティシペートしています。そして一部アクセントとなる箇所には全員が揃ってアンティシペートすることで、一段階上の盛り上がりを作るという構図になっています。具体的には、1番が終わって2番が始まるところ(0:49)なんかがそうですね。
こちらは最も極端な例。イントロからもうずっと食ったリズムになっていて、頭に揃えるのはサビの始めだけで、他はずっと前のめりな雰囲気を演出しています。この曲はドラムのいちばん初めの第一打がすでに食っているため、小節の頭がどこなのかで混乱してしまうかもしれません。そういう場合は2・4拍目に刻まれるスネアを目印にすると良いでしょう。
二者の比較
もうひとつくらい、同じ曲でシンコペーションとアンティシペーションを施した比較をしてみます。
こうして聴き比べると、展開を先延ばしにするシンコペーションは、「焦らし」や「タメ」を感じさせて、これはこれでいいですね。今回みたいなメロウな曲調の場合、この遅れてやってくるピアノが絶妙な存在感を放っています。
それにしても、「シンコペーション」と「アンティシペーション」はなかなか区別が難しいですね。日常的な会話では、あまりこの区別を気にせず、両方まとめて「シンコペーション」と呼んでいる人もいます。ですから、細かいところをキッチリしたい人は分ければいいし、気にしない人は混ぜてしまっても、コミュニケーションで重大な問題を起こすことはないでしょう。
まとめ
- 「弱拍」ないし「裏拍」にアクセントを持って来ることを「シンコペーション」といい、ポピュラー音楽で日常的に使われている手法です。
- 正確に言えば、タイミングが「早まる」か「遅れる」という二種類の現象が起きていると考えます。
- パートごとに「表」と「裏」のどっちを強調するのか。その組み合わせの上に全体のリズムが形成されます。