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クラーヴェとトレシーロ

リズムの世界にはいくつかの定番リズムパターンというのが存在しますが、中でも有名なのがクラーヴェClaveです。クラーヴェというのはピコピコとした音が鳴る打楽器の名称ですが、加えてキューバ・ラテンアメリカ系音楽で用いられるリズムパターンの枠組みのようなものを指す言葉としても使われています。
クラーヴェのリズムパターンを取り入れることで、ラテン音楽のようなノリの良さを楽曲に持ち込むことができます。いくつか種類があるので、代表的なものをこの記事では紹介していきます。

1. フォワード・クラーヴェ (3-2)

まず1小節目に3回、2小節目に2回のアクセントがちょうどこのタイミングで来るリズムパターンのことを、3-2 ソン・クラーヴェ3-2 Son Claveといいます。あるいは自由派の参考文献のひとつである「The Jazz Theory」ではフォワード・クラーヴェForward Claveと呼んでいます。

ラテン音楽ではこんなふうに高音の打楽器でこのアクセントを刻むことで、リズムに軽快さを付与しています。

倍速バージョン

とてもゆったりしたリズムに聞こえますが、ポピュラー音楽ではこれを倍速にしたリズムパターンがよく使われています。

これくらいのスピード感になると、何か聞き覚えがあるはずです。

実際の曲例

こんな風にダンスミュージックのリズムとして使われたり、あるいはコールドプレイのようにギターやシンセをジャカジャカ弾く時のリズムにこれを用いたり、あるいは「地上の星」のようにメロディのモチーフの骨組みとしてこのリズムが使われたりします。時々アクセントをずらすことでバリエーションをつけるようなものもよく見られますね。

アフリカポップスでの例

この記事ではクラーヴェのリズムを中南米・カリブの音楽理論の枠組みから解説していますが、そのルーツをさらに辿れば必然的にアフリカへと繋がります。そのためか、現代のアフリカの人気ポップスを聴いてみると、そこでも頻繁にソン・クラーヴェと同様のリズムを見つけることができます。

ですからラテン系の雰囲気に限らず、アフリカ風の要素を音楽に盛り込みたいという場合にも、クラーヴェは効果的に働くでしょう。民族性の表現・表出においてリズムが鍵になってくるというのが、今回の記事のひとつのポイントでもあります。

2. リヴァース・クラーヴェ (2-3)

先ほどのフォワード・クラーヴェの1小節目と2小節目をひっくり返したパターンもおなじみです。

こちらは打数が変わったので2-3 ソン・クラーヴェ2-3 Son Clave、もしくはパターンがひっくり返っているので、リヴァース・クラーヴェReverse Claveと名付けられています。冒頭あえて音を鳴らさずに空白から始まるので、こちらはちょっと大人びておしゃれな気がしますね。

実際の曲例

こちらは日常系アニメのBGMです。ドラムスティックがはっきりとリヴァース・クラーヴェを奏でている典型例で、可愛いサウンドとセットにすることで、陽気でファニーな雰囲気を演出しています。

倍速バージョン

こちらも同様にして、スピードを倍にしたパターンがよく使われます。

実際の曲例


ゆこぴの『強風オールバック』では、間奏のカスタネットがリヴァース・クラーヴェになっています。4つ打ちのキックに対して適度に打点がずれるので、4つ打ちとクラーヴェのコンビは定番です。

東京事変の『絶体絶命』は、曲を通してリヴァース・クラーヴェが骨組みとして使われています。こちらのライブ映像では、イントロでドラムがしっかりとそのリズムを提示しているので分かりやすいです。和音使いなどは全体的に暗めの曲調ですが、そこにラテン風のリズムを掛け合わせることでエモーショナルな一曲に仕上がっています。

ジャージークラブ・ビート

リヴァース・クラーヴェは最初の1拍目の頭をあえて空白にすることで非常に大人っぽい複雑なアクセントを作っていますが、クラブ・ミュージックなんかではやはり、頭にガツンとアクセントが欲しい時も多いです。そのためそうしたジャンルでは、1打目を手前にずらした“改造版”が定番になっています。

特にジャージークラブと呼ばれるジャンルではこのリズムがジャンルのアイコン的存在になっており、主にはキックでこのアクセントが提示されます。

4つ打ちっぽく始まると思いきや、後半でシンコペーションが入ってキックが3打に増える。このシンプルさと複雑さのバランスが実にちょうどよく、ジャージークラブだけにとどまらず様々なジャンルで、様々な楽器編成で、そして様々なテンポでこのリズムが取り入れられています。

ノリノリな音楽にピッタリですよね! 中には、通常のリヴァース・クラーヴェとこの“ジャージークラブ・ビート”を合体させた例も見られます。


『Perfect Form』と『Run Free』ではどちらの曲でもジャージークラブ・ビートとリヴァース・クラーヴェが交互に使われていて、より長いループを形成しています。パターンにバリエーションが生まれて周期が長くなることで、より飽きづらくなることが期待できます。

クラーヴェは、適度にシンコペーション(裏拍のリズム)が交えられていることにより、軽快さを生み出しています。こうやって表拍を増やせばよりプリミティブなパターンへ改造できるし、逆にさらに裏拍のアクセントを増やせば、より複雑なノリへ変えていくこともできます。

3. ボサ・クラーヴェ

例えばボサノヴァでは、ソン・クラーヴェを1打だけ裏拍にずらしたパターンが愛用されます。

シンコペーションが増えたことで、どこかさらに“大人”な感じが増した気がします。ボサノヴァで愛用されることから、このパターンはボサ・クラーヴェBossa Claveと呼ばれます。

こうしてボサノヴァの典型的なリズムとして使われるほか、倍速バージョンはやはりEDMのフレージングなどに活用されています。

2-3 ボサ・クラーヴェ

また、ソン・クラーヴェのように前半と後半をひっくり返した「2-3 ボサ・クラーヴェ」も当然ながら存在します。

これを倍速にすると、ちょうど2・4拍目のスネアの打点と全く重ならないという特徴があり、リズムが複雑になるのに加え、楽曲のミキシングの際に音量を奪い合わなくていいというメリットもあります。

この点においてバックビートのスネアを叩くポピュラー音楽との相性がよく、ちょくちょく利用されるのを耳にします。

当然ながら実践においては即興的に一部だけアクセントをずらして演奏したりということもするでしょう。いずれにせよ、とはいえこのようにまず基本のパターンがあり、それを反転させたりずらしたりしてリズムをアレンジすると考えると、リズムパターンを頭の中で管理する際に情報を整理しやすくなるはずです。また、特定のジャンルが特定のビートパターンを頻繁に利用しているという知識も重要ですね。

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