目次
前回は穏やかな移動である2▲2▼の接続を紹介しました。残る接続は3度と5度ですが、ここでは5度の方を先に紹介します。というのも、こちらの方が基本的なコード進行を構築する上での重要度が高いからです。
1. 5度進行の重要性
5度進行は、コード進行のネットワークの中で最重要とすら言えます。というのも、メジャーのリーダーIに対するお供IVVとの関係、またマイナーのリーダーVImに対するIImIIImとの関係がいずれも5度だからです。
「リーダー」と「お供」を繋ぐ架け橋が一律で5度。そういった意味で、一際重要度が高いわけです。ちなみに「リーダーとお供」という関係性が唯一あてはまらない5度の接続が、IIm⇄Vですね。
2. 5度進行の特徴
まず上行/下行を問わない5度進行全般の特徴として、ルートの移動が5度と大きいことから、パワフルで強い推進性を持つということが言えます1。 またコードトーンの変化を見ると、共通音は1音で残り2音が変化しますから、2度進行ほどでないにせよ、構成音が変化することによる展開力というのも十分に有しています。
2度進行が穏やかな曲想を作るのに対し、こちらはパワーがあって劇的な展開を作るのに長けている。そういった基本認識をまず持つと、実践での使い分けがしやすいかと思います。
3. 5度下行の特徴
さて前回は上行・下行をいっぺんに紹介しましたが、ここからは解説内容が増えてくるので、上下で記事を分けます。今回解説するのは5▼、5度下行の方からです。
5▼の接続はクラシックとジャズの世界で長らく音楽の最も基礎的・根本的な進行とみなされていて、ご覧のとおり、かつて禁じられていた進行というのがひとつもありません。5▼は機能論の観点から見てもT–S–D–Tのサイクルを“順行”することになるので、緊張/弛緩の分かりやすい流れを作ることに長けています。
また日本の一般的な音楽理論では、この5度下行を最も結びつきの強い進行であるとして、強進行という名前をつけています2。
西洋音楽理論において、5度下行は“強い”という評判を得ている。それが5▲より5▼の方を先に紹介する理由です。ここからは、5▼を活用したコード進行をいくつか紹介しますね。
6-2-5-1
6-2-5-1の進行は、5▼が3回続く非常に明快なコード進行ですね。そのパワフルな推進力から来る快活な印象のためか、マイナーコードが2つあるわりにはさほど暗くなく、パワーを感じるのが特徴です。
いずれも暗いと言えば暗いですが、進行には推進力があります。マイナーキーなんだけどもジトジトした感じにはしたくないとか、暗めだけども希望も感じるような情感にしたいとか、そういった時にこういう進行が候補となってきます。
なお「ブレーメン」ではIImのコードがクオリティチェンジでメジャーに変わっています。マイナーコードの連続を避ける形になるので、その分より明るい方に全体のトーンが傾いているかと思います。
2-5-3-6
TDSの回では、4-5-3-6を「J-Popの王道進行」として紹介しました。その亜種であるのが、この2-5-3-6。
5▼の間に、つなぎとして3▼が挟まっている形。やっぱり推進力があってエネルギッシュですから、そのような曲で使うと活きます。
こちらはサビが2-5-3-6。クッキリした5▼の魅力がよく生きています。ちなみにサビ以降の間奏とAメロは4-5-3-6になっていて、サビと他のパートでエネルギーの強さを調整しています。
Two-Five-One
またジャズでは2-5の進行、または2-5-1の進行が非常によく使われ、それぞれトゥー・ファイヴTwo-Five、トゥー・ファイヴ・ワンTwo-Five-Oneと名付けられています。名付けというか、ただ数字を英語で読んだだけですけども。
S–D–Tという風に「緊張を高めて一気に緩和」という形をとるため、聴いていて非常にスッキリと快活な心地よさがあります。
「Sunday Morning」「Say So」「Come and Get Your Love」「ヴァーチャル・ヴァカンス」は一曲通してずっと2-5-1が使われていて、5▼の魅力が分かりやすい曲です。明朗・快活ですよね。「Pride」はちょっと変わっていて、IImの代わりにクオリティチェンジしたIIを用いています。
バリエーションの作り方
コード進行は4つのコードでひとつのカタマリを形成することが多いわけですが、2-5-1は3つしかコードがないので、4つ目に何を置くかでバリエーションが作りやすいのも特徴です。いくつか分析してみると…
曲 | 4つ目のコード |
---|---|
Sunday Morning, Life Goes On | I |
Super Star, Imazine, ヴァーチャル・ヴァカンス, Pride |
VIm |
I.F.L.Y., 0X1=LOVESONG, Feel This Moment | IV |
Say So | IとVIを交互に |
ほかにはIIImやIIIを持ってくるパターンも考えられますね。あるいはIImやIを、それぞれの仲良しペアであるIV・VImに替えればまた長短と接続が変わって新しい曲想が得られます。
ジャズ曲での2-5-1
せっかくなので、参考までにジャズでの特徴的な2-5-1の使われ方も紹介させてください。
こちらは「Tune Up」というジャズ曲の、アドリブパートの伴奏動画です。ジャズプレイヤーはこうした音源を使ってアドリブの練習をしたりします。さて、コードの表記には未習の「セブンスコード」が使われていて少し難しいですが、いったんそこには目をつぶってもらって、簡易化したコードネームで見ると冒頭12小節は次のようになっています。
- EmADDmGCCmFBGm
たくさんのコードが登場しますが、やっていることはシンプルで、実は異なる3つのキーで2-5-1を続けざまに演奏しています。最初はDキーの2-5-1、次はCキーの2-5-1、最後はB♭キーの2-5-1-6です。2-5-1があまりに好きで、連発したいが同じループだと単調なので転調した…という感じ。ここにアドリブソロが乗ると、完成形としてはこんな感じになります:
すごく複雑に聴こえますが、それは頻繁な転調と、それから「セブンス」や「テンション」での濁りの付加によって各コードを装飾しているからで、根幹の構造だけで見れば実は2-5-1でほとんどが成り立っているのです。こうしてクルクルと転調しながら2-5や2-5-1を連鎖させていく手法はジャズ曲だとよく見られるもので、ジャズの特徴のひとつとなっています。
4. 5度下行と他系統の混合
5▼は、どこにどう使っても安心できる、本当にベーシックな接続です。良くも悪くもクッキリして明快なので、他の接続系統と交えることで表現の幅を補っていくとよりコード進行として表現の幅が増します。
6-4-5-1の王道進行
例えば先ほどの「6-2-5-1」のIImをIVに変えて、「6-4-5-1」にするのは定番です。この2人は“親密度”の高い仲良しコードですから、たいていの状況で交換が成立するのでした。
結果として、2・3・5度の接続を1つずつ使う、バランスのとれたコード進行になりました。接続系統がバラけると、統一感が薄れる代わりに感情豊かな曲想が芽生えます。これはJ-Popの王道進行のひとつです。
こんな感じで、とりわけバラードのサビで重宝されます。最後のIはアレンジのしがいがあって、VImにすればグッと暗くなるし、IIImだと切ない感じになるし、クオリティ・チェンジしてIIIにするとかなり揺さぶりをかけにいく感じになります。サビの1周目はノーマルな6-4-5-1で、2周目でそういった変化をつけにいくなんていうやり方も、定番です。
4-5-3-6の王道進行
あるいは「2-5-3-6」の2を4に変えれば、例の「4-5-3-6」になりますね。
やっぱり2・3・5度を1ずつ使うバランス型です。こうやって接続系統を元にコード進行を見ていくと、コード進行と曲想の関係性が少しずつ見えてきますね。日本では、このようなクッキリしすぎないコードの方が好まれる傾向にあるようで、こうした進行の方がよく耳にします。
クッキリ | 穏やか |
---|---|
6-2-5-1 | 6-4-5-1 |
2-5-3-6 | 4-5-3-6 |
コードを入れ替えたらばその該当箇所のサウンドが変わるというだけでなく、前後との接続系も変わり、それがまた印象の変化に繋がるという認識を持つと、コード進行のメカニズムのようなものがよく分かってきます。
まとめ
- 5▼は大きな移動でTSD機能を「順行」するので、自然なうえ高い推進力があります。
- 5▼は、その使いやすさや重要性を鑑みて、一般的な音楽理論では「強進行」という特別な呼び名がついています。
- 5▼のみの進行だとあまりにもパワフルすぎるという場合には、コードを取り替えてバランスを調整するとよいです。