目次
2度、5度と接続種の説明をしてきて、残すところは3度のみ。まずはまた上行/下行に共通する性質から見ていきます。
2. 3度進行の特徴
3度上下でコードを接続した場合に最も特徴的であるのは2音も共通音があるという点です。
2度は共通音なし、5度は共通音1つでしたから、この「共通音の多さ」に関しては3度の接続がナンバーワンです。構成音の変化が少ないと、それだけ聴いた印象としてもやはり変化が抑えめに感じられます。
また実際にフレーズを作る際にも、コードをまたいで同じ音を伸ばしっぱなしにしたり、同じフレーズをそのままリピートしたりという戦略を非常に取りやすいわけなので、結果論として3度接続をしている間は音楽があまり大きく展開しない方向に行き着きやすいという、そういう見方もできます。
- VImIVVImI
こちらは3度接続だけで作ったコード進行で、VIm–IVの間とVIm–Iの間では共通音を駆使して全く同じフレーズを繰り返しています。特にサンプルを活用するダンスミュージックやヒップホップにおいては、フレーズのリピートをしやすい3度接続は利用価値が高いです。
3. 3度下行の特徴
今回も上行/下行を個別に説明します。まずは下行、3▼の接続から。
3▼はそのほとんどがクラシックでも頻繁に用いられる“優等生”な進行ですが、IIIm→Iだけが例外的に禁則とされていた過去があります。これについては後述するとして、まずは定番のコード進行を見ていきましょう。
1-6-4-5
こちらは3▼が2回続く定番の進行。非常に落ち着きがあり、Aメロで使うのが最も一般的。ちょっと安定しすぎていて、最近の曲では少し使用される頻度が落ちてきている印象が個人的にはあります。
1-6-4-5で一曲まるまる押し通したことでおなじみなのが、ベン・E・キングの『スタンドバイミー』という曲です。
古い曲ですが、何かしらで聴いたことはあるんじゃないでしょうか。5▼の回にやった6-2-5-1や、5▲の回にやった6-4-1-5などと比較すると、やはり穏やかでゆったりと物語が進んでいく感じがします。
こちらはポリスという80年代にヒットしたスリーピースバンドの代表曲。イントロとAメロで1-6-4-5を使っています。やはりこのような落ち着いたパートで、この変化の少なさが活きるなという印象です。
5度進行が楽曲の骨格を作る“花形”のような存在であるのに比べると、3度進行は上下ともに脇役な立ち位置ではあります。他には4-5-3-6や6-4-5-1といった王道の進行の中で活躍していますね。
2. IIIm→Iの接続
さて、ひとつだけ禁則扱いされているIIIm→Iは、30種類の接続法のうち、最も使いこなすのが難しいのではないかと思います。
古典派理論で禁則になっているだけでなく、ジャズ理論書でも「めったに見られない」と説明されるほどこの進行はレアな存在です1。
同じ「かつての禁則」といっても、V→IVはもはや地位を十分に確立しているし、V→IImだって大ヒット曲の例がたくさんあります。しかしこのIIIm→Iに関してだけは、自由になった現代においてもまだそんなに愛用されてはいません。
IIIm→Iが使われない理由
この進行が“なぜ”めったに見られないのかという理由の説明となると、明確な答えは未だに出ていません2。 ひとつ曲想の面から考察するなら、肝心のIへの着地なのに、それが変化の少ない3度進行で行われてしまうことへの物足りなさのようなものがあるかもしれません。V→IとIIIm→Iを比べると、後者の方が構成音の変化もルートの移動量も少ないです。
5度のクッキリとしたモーションによる終止に我々の耳が慣れきっているので、IIImの次にいきなりIが来てしまうと、「アッ…なんか急にヌルッと終わった…」という“裏切り”となる。それが良い方にうまく作用する場面が少ないため、選ばれづらい……というようなことは考えられます。
3. IIIm→Iの実例
使い方の難しいこの接続ですが、その独特な曲想を活用した例を少し紹介したいと思います。
Lady Antebellum – Need You Now
こちらはサビ冒頭で1-3-1-3という進行をする、非常にユニークな曲。
歌詞とのマッチングが見事で、「私は独りきり。あなたに会いたい。電話しないって言ったけど、もう抑えられない」という、クヨクヨした失恋ソングです。そうしたテーマに対して、IIImへ進んで物語が動き出したかと思いきやまたIにすぐ戻ってしまうという、展開に乏しいコード進行がかえって良くフィットしていると言えるでしょう。
水曜日のカンパネラ – エジソン
こちらは4-5-3-1という進行がメインのループとして使われている珍しい例です。全体の流れとしてはJ-Popの王道、4-5-3-6進行にそっくりですが、最後の着地がマイナーのVImではなくメジャーのIであるという構図。
先ほどは「急な着地が裏切りになってしまうのかも」という推論をしましたが、4-5-3と来れば次にトニック機能のコードが来ることはむしろ期待どおりの流れなので、そこがVImじゃなくIにすり替わっても違和感なく聴かせられる…といったところでしょうか。またコード楽器の演奏が控えめでそもそもコード感が希薄であるとか、メロディラインの流れだとか、そういった細々した部分が全部噛み合った結果うまくいっている感じがします。
こうしたヒットソングでの用例が今後も続いていけば、いずれはこの接続も日常的なものになっていくかもしれません。とはいえ現状だと、なかなかこの独特な曲想を活かしづらいのがIIIm→Iという接続です。これを曲中で使うときには、IIIm→IVやIIIm→VImの方がよく聴こえるのでは?と確認してみるのがよいと思います。
まとめ
- 3度の接続は共通音が2音と多く、ルートの移動量も3度と中庸なので、変化が少なく落ち着きがあります。
- 唯一IIIm→Iはかつて禁則となっていました。曲想が独特で、活きる場面がやや限られます。