目次
4. 奇数シェルの取り方
ほか、メインメロディの中で特に大事なところで気持ちいハモリになるように逆算していくメソッドも考えられます。
例えばサビの始まりは「3度下」が良さそうだったけど、そのままだとサビ終わりでハモリが偶数度になってしまって、綺麗に終われない……なんてことは起きえます。そういうとき、ゴールからの逆算の意識が大切になります。
3度上下ハモリの場合は、どんなパターンが要注意になってくるでしょうか?
こちら、黒く塗りつぶしたのがメインメロ。その3度上下にハモリをつけたとき何の音になるかの確認で、色をつけたのが要注意の箇所です。改めて表でまとめると、次のようになります。
シェル | 3度下 | 3度上 |
---|---|---|
Rt | △ 6th | ◎ 3rd |
3rd | ◎ Rt | ◎ 5th |
5th | ◎ 3rd | ◯ 7th |
7th | ◎ 5th | △ 2nd |
こうして見ると、3rdシェルはハモリ構築においてもイージーであることが分かります。エースはとことんエースなのです。
要注意の音をチェック
まずRtに対する下ハモが6thになる。これはかなり安定感を阻害するので、使いどころを選びます。それからメインが7thの時上ハモをすると2ndになってしまう。これも随分サウンドが不安定になるので、効用を理解して使う必要があります。
それから5thの時には上ハモが7thになります。7thは奇数度ではありますけども、いくらかの濁りがあることは事実なので、曲中のどれくらい安定感が欲しい場面なのかという状況次第によっては、避けた方がいい場合がときどきあります。
「偶数シェルハモリ」がどれくらい自然/不自然になるかはカーネル差や「詳細度数」レベルでの分析が必要で、詳しくはIV章で扱うことになります。現段階では「偶数ハモリは要注意、やってみてピッタリだと感じるとき以外は、ずらして4°にした方が安心である」くらいの認識がちょうどよいかと思います。
ただ念のためもう一度確認しておくと、短めの音だったり強調されていない音であれば、偶数だろうが奇数だろうが問題ありません。長い音、目立つ音のときに、こういう偶奇意識が大切になるということです。
実例で確認
ハモリについて学ぶには、実際の楽曲から丁寧に耳コピをするのが一番でしょう。ジャンルや編成によって、7thの濁りをどこまで許容するのかなどには違いがあります。
ゆずの『栄光の架橋』は、ハモリの選択システムが非常に明確な例です。サビは基本的に「3度上」のフォーメーションですが、メロが5thシェルのとき、ハモリは7thを避け、4度上のRtで“硬の配置”をとります。
7thの濁りはジャンルによっては何の問題もないものですが、今回のようなストレートなフォークソングでは、力強いメッセージ性が削がれてしまいます。ここで配置を崩して4度ハモで対処するのは、間違いなく最適な選択でしょう。
そして、締めのフレーズである「架け橋へと」は、メインメロディがIのRtシェルという、完全にドッシリとした終止をして終わります。ハモリは基盤に「3度上」をチョイスしたことで3rdとして乗っかる形になり、非常にきらびやかなサウンドでサビを終わらせることができています。
「3度下」だとこの最後の最後で“硬”の配置による回避処置が必要になってしまい、どうも締まりが悪い。このラストをいかに良く聴かせるかという観点からの逆算で「3度上」を基盤に選択した可能性も十分に考えられます。こんな風に、聴かせどころを元にハモリの上下を決めると、迷うことが減るでしょう。
基本配置の変更
上例のように、1つのパートの中では1つの配置を基本として動くのが、一番やりやすくて安定した形です。途中で基本配置の変更を盛り込もうとすると、ちょっとレベルが上がります。
遠近の変更
とはいえ、3°から6°、6°から3°のような遠近だけの配置変更であれば、さほど難しくはありません。メロディにぴったり寄り添うのを一時的にやめて、違う方に動けばいいのですから。
例えば3°で下ハモをしている時には、メインメロが上行する瞬間が距離変更のチャンスです。なぜなら上行それ自体が、下側にいるハモリから距離を広げるような動きであるので、ここでハモリが足並みを揃えず逆に下行すれば、少ない動きで一気に二者の距離を広げることができるわけです。サビ前で「ちょっと広がりを出したいな」なんて時に、ハモリがスッと動いて「遠の配置」をとる……なんていうのは非常におしゃれなやり口です。
ただ、いきなり3°から6°への転換が急といえば急であるのと、傾性音のファを無駄に踏んでしまったのがちょっと心残りです。微妙に音を変えて、他のパターンというのも考えられます。
こちらではいきなり3°から6°へ変更するのではなく、間に“硬”の4°を挟んでから6°へ至った例。途中で傾性音ファを避けるのに“硬”の5°ではなく“濁”の7°へ進んだのは、ちょっとしたチャレンジです。縦のハーモニーとしては濁り強めなのですが、ハモリ自身のラインが「ファソミレ」という聴きやすいメロディになることを今回は優先しました。
ハモリが配置変更をする時には、ハモリ自身がちょっとしたメロディラインとして成立する状態になっているのが望ましいです。あまりにも“度数の奴隷”みたいになってカクカク動いていると、どうしても歌の魅力というものが削がれてしまいますからね。「歌心」というのがハモリでも重要です。なので今回は“濁”の配置になってでもハモリ単体の有機性を優先しました……が、この辺りは本当に明確な正解のないところでもあります。
上下の変更
一方で、「上ハモ」「下ハモ」をチェンジしようとしたら、これはメインメロを跨ぐ必要があるため、難易度が大きく上がります。実践で利用されることが少ないので、ここでは紹介を割愛することにします…。
半音進行の模倣
ひとつだけ、特殊なケースを補足しておきます。
こちらは「ドシド」「ファミファ」という半音の動きが美しいメロディラインなのですが、ハモリには少し問題があります。ハモリは「ラソラ」「レドレ」という全音の動きをしていて、見ようによってはせっかくメロが演出している半音のなめらかさを、ハモリが邪魔しているとも言えますよね。
これが不適切に感じられる場合、「本来の音階から逸脱してでもメインメロディの半音動作をハモリが模倣する」という選択を取ることができます。
臨時記号がついているとは思えないくらい自然に聴こえますよね。それはもちろん、「主旋律にぴったり寄り添って邪魔をしない」という正当な目的から生まれた手段であるからです。これはいつどんな時もできるチョイスではなく、変に目立ってしまうリスクも当然ありますが、いずれにせよこうして「あえて逸脱することが正解である」時もあるというのは知っておくとよいです。
5. 応用的ハモリの紹介
そんなわけで、「基本は全て“柔”の配置、それも3度が楽。カーネル/シェル面で問題のある場合には、3度には4度、6度には5度という“硬”のオプションがすぐ隣にあるので、そちらに逃げる。」という、これさえ実践できればポップスのハモリ基本型はマスターです。
ここからはおまけとして、そうでない応用的な形をとったハモリをいくつか紹介します。
5度のハモリ
4度・5度は“硬”の配置ですが、特に5度の方はその硬さが顕著です。まして同一人物での多重録音でのハモリだと、「5度キープハモリ」は硬すぎて効果が微妙になってしまう場合もあります。しかしそのような硬めの質感がマッチする場面というのもあります。
椎名林檎と宮本浩次 – 獣ゆく細道
男女のデュエット曲です。43秒あたりの「右往左往している」のところで、2人が5度でピッタリとハモリます。これだと「3度ハモリ」ほどのカラフルさはないわけですが、まさにこのMVのような「モノトーン」の調子を出したいのであれば、選択肢に入ってきます。この曲では男声と女声という質感差・音域差が硬さを和らげてくれていますね。
Perfume – セラミックガール
その硬質さを逆手に取って、電子音楽ではロボット・ライクなテイストのハモリを作る際に5度が選択されることがしばしばあります。Perfumeの「セラミックガール」はAメロ全体を通じて顕著な5度上ハモリが散見されます。このロボットぽさは、もちろんオートチューンの効果もありますが、「5度ハモリ」という理論的側面も寄与しているのです。
古典派クラシックと5度ハモリ
古典派クラシックでは、このような「5度キープのハモリ」は原則的に使われません。クラシカルな合唱曲風のハモリを作りたい時には、このようなハモリ方は避けた方がよいでしょう。
春に – 木下牧子(作曲)
こちらは三声の合唱ですが、全体を通じて5度キープの動きが(単なる同音連打のメロディを除いて)ほとんど存在しないことが分かりますし、そして3度・6度の「柔の配置」がどれほど中心的役割を果たしているかも分かります。
1度・8度のハモリ
ここまで触れてきませんでしたが、もちろんメロディと「全く同じ音(ユニゾン)」や「オクターブ上/下」でハモることもあります。質感としては、5度よりもさらに硬く澄んだ、一体感のあるサウンドになります。
相対性理論 – テレ東
こちらはサビで男声がオクターブ下からハモリます。どことなくモノトーンさの漂う曲ですので、変にカラーを付加しない8度ハモリがぴったりですね。一方で終盤ではメインボーカルとオク下のハモリそれぞれに対して3度上のハモリを加えて、合計4声で盛り上がりを作っていて、ハモリを展開構成に活かしているという点でも注目すべき一曲です。
2度・7度のハモリ
強い濁りを生み出す2度・7度のハモリは、完全に上級者向けです。しかしその濁りがいかに美しいものであるかは、今少し垣間見ておきましょう。
Bon Iver – Woods
こちらはアカペラ曲で、独唱から始まって、単一のフレーズのリピートの中で少しずつハモリが増えていくというユニークな構成の曲です。3周目でハモリが3声になるとハーモニーが複雑化し、2度や7度のハモリが随所に見られるようになります。
コード編I章では「濁りは旨味」という話がありましたが、当然ハモリでも同じことは言えます。適度に差し込まれた濁りはフックとして耳を引く効果もあるので、そういうのを活用できるステージまでいくと、「本当に理論を勉強してよかった、センスだけではここまで絶妙なバランスは組めなかった」と感じることが増えるはずです。
このような複雑なハーモニーの構成法については、コード編の知識と、メロディ編ではV章の内容で押さえていくことになります。
メロディに沿わないハモリ
この記事では定番型である「メロに沿うハモリ」を中心に解説しましたが、現実にはメインメロディとは独立した動きをするハモリというのもやはりあります。「メロディと逆向きに動く」とかはかなり高度ですが、ド・ミ・ソのような安定音にハモリを固定して歌い続けるというワザは簡単かつ効果的です。
サカナクション – 『バッハの旋律を夜に聴いたせいです。』
こちらはAメロにコーラスを乗せて盛り上げるという特殊構成の曲ですが、「バッハの旋律を夜に聴いたせいです こんな心」〜「君の顔を思い出したよ」のセクションで、左右からブワッとコーラスが重なっているわけですが、その音がほとんどミ・ソの音に固定されています。
一見単調かと思いきや、メインメロディが動くたびに度数関係が変わるので、結果として非常に豊かなカラーを提供してくれるという、なんだかチートみたいな効果をこの「固定ハモリ」は持っています。
何もしてないのに、メインメロが動いてくれるから勝手に配置変更されて「濁・柔・硬」が全て楽しめるフルコースです。このやり方は、「濁」のところが問題なくサウンドしているかだけは気をつけた方がいいですね。
まとめ
さて、改めてハモリの位置どりをまとめるとこうなります。
「ユニゾン・オクターブ」と、「ファ-シのトライトーン」まで含めると、全部で5クラスということになります。この分類意識と、カーネル/シェルの知識を合わせれば、その状況に最適なハモリがあてられるはずです。
まとめ
- ハモリを構築するにあたっては、ハモリ自体の位置どり(カーネル/シェル)と、主旋律との度数関係の2つが鍵になります。
- 主旋律との度数関係は、「2-7」「3-6」「4-5」「1-8」そして「トライトーン」の5つに大別すると分かりやすいです。
- 3度・6度によるハモリが定番で、これを基盤にして、うまくいかないところだけ4度・5度にずらして対応するのが最も基本的なスタイルです。