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調性引力論 ❹ 声域区分法

4. 3セグメント構造

1パートで3セグメントを消費するとなると、かなり豪華な使い方と言えます。これに関しては先述の「2セグ」を基準にしつつ、そこに収まりきらず上下にはみ出した部分がアクセントとして機能しているというような見方をすると分かりやすいかと思います。

「外2セグ」の拡張

まずは「外向きの2セグ」から少しはみ出して3セグになったというフォームを見てみましょう。

2019年の大ヒット曲『Pretender』は、AメロもBメロも3セグメントをぴったりフル活用します。どちらも「外2セグ」を基盤にしながら、Aメロは下へ、Bメロは上へ突き出るという対照的な構造になっているのがポイントです。

「プリテンダー」のセグメント構造

今回もまた、多少単純化しつつ四角で音域を可視化しました。基本的には「外2セグ」の魅力である上下2つのトーナルセンターによるドラマで展開していて、特に上のドから下のドへ直接ジャンプするのがこの曲のフックになっています。

Aメロでは「ずっとそばに」といった数箇所だけはさらに沈み込んでラ・ソを歌う。逆にBメロでは、クライマックスである「伝えられたらいいな」のところだけ中心音を越えて上のセグメントに突入します。

こうして見ると、本当に音域が広く跳躍も多いメロディではあるんですが、基本はきっちり2区画に収めて、ブロックの終盤にだけアクセントとして3区画目を利用していることが分かります。
だからこそ、こんなに激しいメロディなのに「まとまり」と「メリハリ」があって、きちんとキャッチーでストーリー性のあるものとして響いてくるのだと言えそうです。この辺りのバランス感覚、センスが凄まじいわけです。

「内2セグ」の拡張

次に、「内向きの2セグ」を上に広げた形を見てみます。

こちらは2020年のヒット曲『春を告げる』。全体的に四七抜きのラインが多いですね。中心のドに向かって次々とフレーズが終止していく場面は「内2セグ」らしさがいっぱいですが、繰り返される高音の「ラソ」のパンチによって絢爛さが増しています。

この曲は全パートを通じてこの3セグメントのフォーメーション、このシステムを保っていて、Bメロだけ傾性音のファを入れ込むことで緩急を作っています(厳密にはAメロでほんの一瞬だけ下の4区画目に入っていますが、本当に一瞬のできごとです)。

「春を告げる」のセグメント構造

見ようによっては、「外2セグ」の下に区画を継ぎ足したという見方もできます。こうやって視覚化すると、単一のシステムを継続していることがよく分かりますね。このループ感はちょっとダンスミュージックに近い作りと言えるかもしれません。

セグメントの広さか、変化か

最初に取り上げた『おしゃかしゃま』も、パートが進むごとに区画が上がっていきますから、合計で見ると3セグメントを利用しています。同じ3セグでも、それをどんなペースで消耗するかでまた戦略の違いがあるわけですね。

3セグメントの消費法

『おしゃかしゃま』の戦略では、1パートごとの表現が控えめになる代わりに、サビに向かってどんどんボルテージが増していくダイナミクスがハッキリと作れます。観客にサビで激しく首を振ってもらうようなロックソングに適したフォーメーションと言えそうです。

対して『春を告げる』の戦略では、パート間の展開が平坦になる代わりに、常に高水準の盛り上がりを提供し続けることができます。「どのパートを切り取られてもよく聴こえる」ということなので、このSNS時代に適合したフォーメーションとも言えるかもしれません。

4セグメント、5セグメント

さらに音域の広い歌手であれば1パートでセグメントを4個以上消費することも考えられます。その場合もやはり、「2セグ」を基準としてそこからどれくらいの高さ・どれくらいの頻度で飛び出しているかという見方をすると分析がしやすいかと思います。

声域の広さが際立つ『白日』では、Bメロ(今の僕には〜)もサビ(真っ新に〜)も4セグメントを利用しています。どちらとも大部分は「外2セグ」に収まっているのですが、本当に深く沈んだときと一番のクライマックスでその区画を越えていく形です。

6. 声域からの逆算

曲を作る際には、歌唱力をフル活用するのではなく「誰もが口ずさみやすい曲」というのを作る時もありますよね。そういう場合に、この区画配分の計画性は重要になってきます。

1オクターブの音域配置

例えば日本の童謡では、ぴったりド〜ドの「外2セグ」に音域を収めた曲がたくさん見られます。おそらく子どもの声域がさほど広くないことを配慮した結果でしょう。

童謡でなくとも、アイドルや男性ロックシンガーなどの曲では「1曲通して1オクターブ以内」というパターンはあります。そしてその場合には、「ソ〜ソ」「ラ〜ラ」のように、「内2セグ」を基盤にしたものが多い印象があります。

30秒プレビューなので一部しか聴けませんが、いずれも“内向き”の1オクターブ以内で曲が成り立っています。一曲を通しての音域をまた可視化してみますね。

曲を通しての音域

実際にはそれぞれキーが異なるので歌う高さは違いますが、こうして相対化すると似たものが見えてきます。

『What is Love?』は「内2セグ」そのもの。『Welcome To New York』はそれをさらに狭めた形ですね。下方からの演出は「シ→ド」の終止さえあればいいという驚異的な潔さです。

「ラ〜ラ」は3セグ構造となりますが、「ソ〜ソ」との対比で捉えてあげると分かりやすいかと思います。すなわち、「下端の安定音ソを捨てて、代わりに最高音でラ→ソのラインを使えるようにした」というトレードを施した状態にあります。「ヘビーローテーション」も「バニラソルト」も、サビの大事なところで「ラ→ソ」を使ってピークを形成しています。

「内2セグ」系統はやはり、中心音に対して上から行くか下から行くかという“駆け引き”や、ストライド跳躍を盛り込めるので、ポップスにおけるストーリー構築が「外2セグ」よりもしやすいと思います。

1オクターブ+αの音域配置

もし1オクターブよりも幾分広く音域をとる場合には、上記の理解を基盤としつつ、あとは上に広げるのか下に広げるのかという見方をすると分かりやすいかと思います。

例えば窮屈だった「きっかり外2セグ」も、上下に1音ずつ広げられるだけで中心音に対するアプローチ方法が一気に増えますよね。

プラスアルファ

4セグメントを使った豪華な構成も実現可能ですから、オクターブより広い音域の場合は「外2セグ基盤」も俄然使いやすくなってきます。

またいくつか曲をピックアップしてみました。いずれも2セグメントから1~2音だけ広げた音域で一曲が出来ています。

1オクターブ+αの構成例

『Sing Out!』は「外2セグ」を下に拡張することで、「低めのシ→ド解決」を可能にし、それをメロで活用しています。『桜の木になろう』は逆に上に拡張し、サビで中心音を越えるストライドなどの演出に利用しています。

『Dynamite』や『Make You Happy』のように「内2セグ」を拡張する主目的はやはりクライマックスで「ラ→ソ」というパンチのあるフレーズを使うことです。この2曲ではどちらもサビのフックとして活用されていますね。

このように、決めた音域の中に「中心音がいくつあって」「中心音へのアプローチが何種類あって」「区画が何セグメントに渡るか」を把握しておくと、曲全体でのペース配分が分かりやすくなると思います。

まとめ

  • 1オクターブをさらに2分割したセグメントを基礎単位として音域を分析する方法を、自由派では「声域区分法」と呼びます。
  • メロディラインが利用するセグメントの位置や幅がどう変化するかは、曲の展開構成に大きく関わってきます。
  • 作曲の際には、想定する音域から逆算してセグメントの構造と展開を考えるやり方もあり得ます。
メロディ編 I章はここで修了です! おめでとうございます。次にどの編へ進むか、あるいは制作や分析の期間を設けるかを考えながら進んでください。

またラップ音楽をやる方には、ラップのピッチとキーの関係という記事がまだあります。

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