目次
1. モードの木(Mode Tree)
ここ数回、ひたすら紹介だけをしてきたので、ちょっと溢れるほどの情報が頭の中でまとまりきっていないと思います。21個のモードについてはそれぞれ一列でリストアップしてまとめましたが、3つのペアレントスケールそれぞれで分断されてしまっているので、3つ並べて見比べるのも大変。
そこで! 27個のモードをインターバルごとに分岐させて並べたツリー状の図を独自に作成しました。名付けて「モードの木Mode Tree/モード・ツリー」です。
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「コードスケールの木」と言った方が正確ですが、まあ、名前は短い方がいいということで・・・。たいていの理論書では、各モードは各章に散らばっていて全部総まとめの図にされることはありません。よっぽど大きな本じゃないと、このサイズの情報量を見開き2ページに集約できませんからね。これけっこう貴重な図だと思います。
図の説明
「モードの木」は木の“根っこ”であるルートを中心に、まずM3かm3かで左右に分かれ、それから7th、それから5th、そしてテンション・・・と分かれていき、辿っていくとスケールに辿り着きます。概ね上の方にシャープの多い明るい音階、下の方にフラットの多いくらい音階が来るようにしました。
最初の分岐で下にとあるのは、ここで真っ先にディミニッシュと対応するスケールを分岐させています。異名同音の解釈関係で、後から綺麗に導いていくのが難しかったため、「もう根幹部分からメジャー系コード/マイナー系コードとは別系統の第三極」ということにして分岐させました。
各スケールの右肩には、コードクオリティとテンション一覧を載せました。
黒丸がコードクオリティで、これなら「マイナーセブンス」です。灰地にダークグレイの「-9」は、アヴォイドだからグレイになっています。灰地にホワイトの「13」は、例の「見解が分かれるアヴォイド」です。ドリアン系の13thと、ディミニッシュが該当します。
「モードの木」は、五度圏と同じようなもので、テンションの似通ったモードを探したり、同じコードクオリティ内で別のモードに換えてみようなんて時の参考になります。ただもちろん、この27個のモードが音階の全てではないので、この表に頼りっきりでは創造性に限りがありますけどね。
モードツリーを使ってみる
実際にモードツリーを使って、よく使うコードのスケールを確認してみます。たとえばキーCで、D–7に進む二次ドミナントとしておなじみの、A7。
こんな感じで、♯がつく3rd以外はキーに対してダイアトニックになるパターンが多いと思います。ノンコードトーンを順番に確認すると、9thはしっかり鋭く響く「9」、11thは完全4度でアヴォイドとなる「11」、13thはコードトーンの半音上に付いて不協和をもたらす「-13」です。
まずモードツリーでドミナントセブンスのエリアである左下へサクッと進み・・・
先ほど確認したテンション構成である「9,11,-13」を目指します。
すると、これは「Mixolydian ♭6」であると発見できました。確かに改めてインターバルを考えると、ミクソリディアンから6度が下がっただけですね。もし6度が「13th」になれば、すぐ上の「Mixolydian」になることがツリーからも分かる。
バリエーションを探索
またA7のばあい、「Dマイナーキー感」「パッシング・ディミニッシュ感」を出すために、シに♭をつけるヴァリエーションもありますね。
これも、先ほどのMixo ♭6のところから遡って名前を見つけましょう。境目は「9か-9か」なので、その分岐まで戻って辿り直せばオッケーです。
対応コードスケールが「Phrygian Dominant」だと分かりました。あるいは、「テンション構成の似たスケールは基本的に近くにいる」「上の方に明るい音階、下の方に暗い音階が並ぶ」という構造に着目して、ひとつ下のスケールを直で見てみるというやり方でも良いでしょう。
こうした作業を通じて、♮シのばあいは「ミクソリディアン」の名前を冠する、つまりVのコードに近い状態であるのに対し、♭シのばあいは「フリジアン」に変わったので、コードのキャラクターがIIImに近いものに変わっていることが名前からすぐに分かります。
また、左上に小さく書いてある型番のようなものは、ペアレントスケールとモード番号を表しています。「MM-V」は「メロディックマイナーの第Vモード」で、「HM-V」は「ハーモニックマイナーの第Vモード」です。
二次ドミナントにおけるスケール選びが持つ「音響的意味」や「スケールごとの相関性」のようなものが、コードスケール理論で整理することによって、よりハッキリと可視化できるのです。
2. モードの地図(Mode Map)
「モードの木」は、モードが縦一列に並んでいるので見やすいですが、そのぶん弱点もあります。それは音響的に似通ったモードが、必ずしも近くに配置されていないということ。
たとえば「フリジアン」と「フリジアン・ドミナント」は、M3かm3かの一音差ですが、3rdは最も根っこに近い分岐点になっているので、ふたりは左右両極に配置されてしまっている・・・。
そこで!! 各モードの「音響的近さ」に基づいて網目状にモードを配置した図も作りました! 名付けてモード地図Mode Map/モード・マップです。
こちらは配置が散漫であるぶん、縦軸と横軸の二軸を使って表現できるため、相関性はよく表現されています。「フリジアンとフリジアン・ドミナント」、「アイオニアンとメロディックマイナー」など、モード・ツリーでは分断されていた二者をラインで繋げられたほか、エオリアンとロクリアンの間に「エオリアン ♭5 / ロクリアン ♮2」を見事に配置できています。また、「ドミナント・ディミニッシュ」がdimにもdomi7にも使える中間地点にいることも表現できました!
まあ、ビジュアライズの仕方は人それぞれ。他にも、「リディアン」「エオリアン」などモード名ごとのグループに分けてみても面白そうですよね。音を鳴らしながら自分のしっくりくる形でモードをまとめてみると、その作業をするだけでずいぶん理解が深まりますよ。
こうしたツールはいわば「五度圏」と同じようなもので、ツールを“補助輪”にして普段からスケールを意識すると、そのうち自然とこの図が頭の中に入っていきます。
3. コードスケール理論の意義
さて、ここまで暗記暗記の地獄街道で、何のためにコードスケールをまとめていたかも忘れかけている気がします。「こんな、片っ端から名前つけて、カッコつけたいだけじゃない?」って気分にもなってきます。主要なモードが出揃ったところで、改めてコードスケール理論(CST)の意義を確認しておきましょう。
演奏の記憶
目に視えない音楽は、言語化することではじめて持ち運びしやすい情報、データになる。これは音楽理論の根本的哲学です。例えばジャズ奏者は、「これがドミナント・ディミニッシュの指さばき、これがオルタードの指さばき・・・」と演奏を習得していくわけですが、そこに名前がなければ頭の中で記憶・整理するのは大変です。たとえ「オルタードスーパーロクリアン」なんて長い名前でも、「ディミニッシュセブンスで、テンションは♭13、アヴォイドは♭9と♭11」と言うよりは遥かに短いです。
情報の伝達
そして当然、情報を人に伝達する際にも、高度なレベルの情報をスムーズに伝えるには、ひとつひとつに名前がついている方が便利なのです。これはコードスケール理論の初回に会話の例を用いて確認しましたね。以前も述べましたが、CSTは「逆説的だけども、名前を大量に用意することで扱うデータの量を少なくする」メソッドなわけです。
発想の引き出し
各ルート音上で、様々なコードやスケールの選択肢がある。それは皆分かっていることですが、やはり名前をつけて体系化されているからこそ閃けるアイデアというのもあります。V章でやった「トーン・クラスター」「四度堆積和音」「複合和音」なんかがその典型例だ。こうした応用技法は、知識として知っているからこそ「引き出し」のひとつとして活用することができます。
今回「モードマップ」のような指針を得たことで、コードやスケールの入れ替えに関するアイデアは、とても引き出しやすくなりました。「ただボンヤリとそこにある」のと、「名前と共に図式化されていつでも引き出せる状態で待っている」のとでは、閃きやすさが違うはずです。
順当な脳のアップデート
以前も述べたように、今やっていることは「4音(コード)から7音(モード)への、順当な脳のアップデート」です。逆の立場で考えてみてください。音楽理論を知らない人に、「コードの名前なんて知らなくたって、自分でいいなと思う音を探していけば、いい曲になるじゃん。なんで音楽理論勉強したの?」と訊かれて、なんと返答するでしょうか? きっと上記のような「記憶」「伝達」「アイデアの引き出し」といった観点から音楽理論の便利さを伝えるはずです。コードスケール理論は、それをさらに一段階細かく行っているにすぎない。
そんなわけで、ここまでのイバラの道はムダではなかった。次節では、実際にこのコードスケールの知識を活用して音楽表現を豊かにしていきます。
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