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Ⅳ章で様々な技法を習得したわけですが、ここからはさらに深みへと突き進んでいきます。Ⅴ章の内容が活きるジャンルは、主にジャズ、プログレッシブロック、ゲーム音楽、映画音楽など。ポップスで使う場面はかなり限定されてきます。ゆえに、これ以降はもう「Information」も存在しません。

1. トーン・クラスターとは

さて、はじめに紹介するのは、トーン・クラスターTone Clusterという技法です。トーン・クラスターは、半音差・全音差もしくはそれ未満の間隔で音符をダダッと敷き詰める技法を指す言葉です。百聞は一見に如かず、実際の演奏を見ていただきましょう。


正装したピアニストと、大きなグランドピアノ。どんな演奏を始めるかと思えば、大きく広げた手のひらで鍵盤をグシャッと潰しました。それどころか1:00からは、左腕全体を使って鍵盤を押さえています

こちらはシュトックハウゼンという現代音楽家の曲。同様にピアノソロ曲で、腕を使って鍵盤を押さえる技法が見られるほか、全体的にも半音で音を敷き詰めてグシャっとした音を作る箇所がいくつも見られます。

こちらはクセナキスという作曲家の作品。今度はオーケストラで、音がカタマリになって一気に押し寄せるような表現がとられています。

これまでも「テンションコード」で、濁りが彩りを作るということはやっていましたが、トーン・クラスターはその究極形と言えますね。主に20世紀以降の近現代音楽でよく使われた技法です。

2. クラスター・ヴォイシング

とはいえ、トーン・クラスターはさすがに過激すぎて、ポピュラー音楽に持ち込むのは困難です。有名な例としてあるのは、ビートルズのA Day In The Lifeくらいじゃないでしょうか。

そこで、これと似たものでもう少し汎用性のあるアイデアが、クラスター・ヴォイシングCluster Voicingです。
「ヴォイシング」は、和音の構成音をどのように配置するかという意味の言葉でした。日本語ではそのまま「配置」と言います。ノーマルなコードの「配置」の中でトーン・クラスターを活用するというのが、クラスター・ヴォイシングです。

クラスター配置の例

クラスター1

こちらは、右手を上図のような状態で弾き続け、左手をC→F→A→Dと動かしていった例です。ベースがきちんと分離しているのと、全音間隔が多いので、そこまで変な感じはしませんね。
特にCやAのルート上ではファの音がいわゆる「アヴォイド」なわけですが、クラスターにしてしまうとそこまで気になりません。

ピアノ曲

こちらは、ピアノを右手も左手も3〜4音のクラスターにして演奏した例です。音価(音の長さ)を短くすると、より自然に聴こえますね。また、他に楽器が増えてくるとなおさらです。和音がハッキリしないぶん、どこか鬱蒼とした雰囲気になりました!

ストリングスやパッド

クラスター配置は、ストリングスとかパッドとも相性抜群です。

こちらはまだクラスターしてない音源。和音の流れとしては綺麗ですが、荘厳な雰囲気を出すにはちょっと物足りない感じもします。そこで登場するのが、クラスター配置だ!

本来の美しいハーモニーが削がれた代わりに、何か只事でない感じが漂ってきました。地獄からの叫びとでも言うような、禍々しさがあります。特に最後の和音はかなりキツめの濁りになっていますが、それも不気味さを強調するのに一役買っていますね。ピアノロールで配置を確認すると、こんな感じ。

ピアノロール

音の埋め方に関しては、全音間隔であればそこまでの不協和にはならないし、逆に半音間隔を増やせば増やすほど、不気味な感じになっていきます。ここにはテンションコードの知識も大いに絡んでくるところで、従来のコード理論でNGとされる「-9thと9th、11thと#11thを同時に鳴らしてしまう」とか、「短7と長7を同時に鳴らしてしまう」とかいったレベルまでいくと、かなり禍々しいサウンドになります。上の例は、そういう意味ではまだ大人しいレベルです。

大切なのは、「普通の音」をきちんと学んできたからこそ、こういうメチャクチャも堂々と出来るということですね。理論がない状態で、こんな風に音をギュウギュウに詰めようと思えるでしょうか? なかなかその発想へは行きづらいと思います。トーン・クラスターは、「理論を知ることでより自由になれる」ひとつの例とだと思います。

まとめ

  • 半音差か全音差で音を重ねた和音のことを、「トーン・クラスター」と言います。
  • 和音の配置の一部にトーン・クラスターを用いたものを、「クラスター配置」と言います。
  • クラスター配置は、主に荘厳さや重苦しさを表現するのに最適です。
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