ポップスの転調技法 ❺短3度上転調

コード編 Ⅳ章:新しい技法

#1 短3度上転調(P-R)

短3度上への転調は、まずパラレル関係のキーへの転調だというところからイメージするとよいです。

PR転調のベクトル

「パラレルのレラティヴ」が、短3度上のメジャーキーです。パラレルマイナーコードのひとつとしてお馴染みの、III。ここを新しい主和音にすることができれば、短3度上のメジャーキーへの転調は完了します。だから転調の仕方は簡単で、パラレルマイナーコードたちを使って、そのまま戻らなければよいのです。彼らが曲中に混ざり込んでくることにはもう我々の耳は慣れっこなので、そのまま戻らずに、VIIIIIVIIIIといったケーデンスを構築すればよい。

こちらはビートルズの名作バラードですが、サビ(I want her everywhere~)のところでGキーからBキーへと転調します。

Here There Everywhereの転調

T転調なので、転調は楽。今回は誘導としてFのコードが挟まり、Bへの流れをスムーズにしています(が、なくても十分転調させられます)。
曲想の面では、調号マイナス3なので理論上転調の際には暗い方へトーンダウンします。一方で中心音高は上がるので、どこかに「持ち上がった感覚」もある。前回やった短3度下転調とはちょうど対照的な性質になります。

短3度上転調から戻るには?

復帰するには短3度下へ転調するわけですが、それもまたT転調なので、さしたる工夫は必要ありません。前回の「僕のギター」の例にあったように、VImをVIにクオリティチェンジして、それをIに見立て直すというのが定番でしょう。「Here, There, Everywhere」でもそのような手法がとられています。

復帰

「僕のギター」ではV-VIという動きでしたが、こちらではIII7-VIという動きですね。

#2 パラレルマイナー転調

一方で、調号マイナス3の転調先がメジャーキーじゃなくマイナーキーならば、それはパラレルマイナーキーへの転調に他なりません。

パラレル転調

概論で述べたように、パラレル間の転調は光と闇の入れ替わり。表現と結びつけやすい重要な転調です。転調の仕方は同様で、パラレルマイナーコードを使ってそのまま戻らない。VIIIVmといったコードから、スッとImに着地すれば転調完了となります。

こちらはメロがDマイナーキー、サビがFマイナーキーという転調パターン。やはりレラティヴ関係を読み替えて、FメジャーキーからFマイナーキーへのパラレル転調だと見なしてあげると、やっていることが分かりやすいです。

制服のマネキンの転調

FキーにとってはVIのパラレルマイナーコードに相当するD7が、そのまましれっとIVに成り代わって、Fマイナーへ着地する。これが典型的な転入法です。

メロの先導

それにしてもこの転調、あまりにも自然で、転調した感じがしません。実はここでも、コードより先にメロディが転入先を示唆するテクニックが使われています。

制服のマネキンのメロ先導

FキーからFマイナーキーへ行くには、E・A・D音にフラットを追加する必要があります。そのうちのA音に、メロが先導してフラットをつけているのです。この「を出すな」の部分は、すごくダークで深い響きが感じられますが、その理由はここでもうすでに転調しているからです。同じC系のコードでも、「答え」のところはまだFメジャーキーを指向する明るいC、対して「を出すな」のところはFマイナーキーの香りを内包した暗いCなのです。

もし深く考えずに「転調はサビからだから、ここはまだフラット1つで…」とやっていたら、こうなります。

ケロっと明るいC7からいきなりDΔ7なので、音楽のストーリーとして繋がっていませんね。ほんのちょっとのメロディの工夫が、音楽性にどれほど甚大な影響を与えるかが垣間見えるワンシーンでした。
ですので既存曲の転調をしっかりと分析するには、コードネームだけではダメです。コードネームに反映されない6度や2度の音が、密かに重要なアクションを起こしていることがあるからです。「サヨナラの意味」のときも、「ポニーテールとシュシュ」のときもそうでした。

パラレルマイナー転調から戻るには?

復帰するには調号プラス3の転調が必要というのは先ほどの場合と同様なので、VIへのクオリティチェンジを使って戻ってもよいし、予備動作一切なしでもよいです。「制服のマネキン」の場合は、サビが終わった直後にもう転出先(Fメジャーキー)のIV-V-VImを演奏して復帰しています。

制服のマネキンの復帰転調

#3 短3度上下のT転調総括

前回と今回で紹介した短3度上下の転調はみなT転調。ある意味では全員が親戚のようなものです。

T転調のネットワーク

この緑ゾーンはいわばファミリーみたいなもの。クオリティチェンジやパラレルマイナーをちょこっと使うだけで簡単に行き来できる間柄です。

中心核となるCキーとAmキーの2人は、他の4調へいずれへもR(レラティヴ)とP(パラレル)の転調だけで辿り着けるわけですが、その手数が多い分だけ微妙に遠いと言えます。
たとえばCキー→Cmキーはすぐ近くだけど、Amキー→CmキーはRの動きが一枚噛んでいるぶんだけ”大きな転調”として感じられるでしょう。
またレラティヴの区別関係がはっきりしている曲であればあるほど、このRの動きが大きなものとして聞こえてくるでしょうね。

マイナーキーという闇から光に転ずるのが調号プラス3の転調、メジャーキーという光から闇に転ずるのが調号マイナス3の転調です。この辺りの相関性が頭に入っていると、表現上効果的な転調を演出できるはずです。

転調に関する記事は、今後もさらに追加予定です。
まとめ
  • 短3度上転調は調号マイナス3の転調。ざっくり言えば、パラレルマイナーキーへの転調です。
  • そのため基本的には、パラレルマイナーコードが転調のきっかけとして有効です。
  • T転調のため、復帰にさほど工夫はいりません。クオリティチェンジを使えばスムーズにすることもできます。

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