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U-he Hive2で新追加されたモジュレータであるFunction Generator。入力シグナルを基にして異なった波形を出力するというモジュラーシンセ的発想を持ったモジュールで、入力とパラメータの組み合わせからどんな波形になるか考えないといけない、上級者向けのパーツになっています。
パラメータはたった5つしかないくせに、組み合わせ次第で出力は実に多様なのです。今回はこのFunction Generator(以下FG)について、記事ひとつ使ってたっぷり解説します。
6つの動作モード
まず最初に知っておくべきは、6つの動作モード。これ次第でずいぶんと挙動が変わるからです。
- Follow
- Follow(Gate)
- Envelope
- 1shot
- Cycle(Trig)
- Cycle(OnOff)
この6つを、ひとまず以下のように3つのグループに分けて覚えてあげると、後の理解が捗ります。
簡単に言えば、Follow系列は入力ソースを丸ごとマネするタイプ。ENV系列はループしないエンヴェロープを作れるタイプ、LFO系列は必ずループする動きを作るタイプです。
3つのグループそれぞれで理解のポイントが変わってきますので、このグループ分けを意識しながら進めていきますね。
Follow系列
Followモードは、一言で言うと「カーチェイス」。FGは入力ソースの値を追いかけてマネします。AttackとDecayは、それぞれ自分よりも高い値を追いかけて上昇する時と、自分よりも低い値を追いかけて下降する時のスピードを決定します。
入力をLFOのSquare波にすると、Followモードの典型的な動作が分かります。+100と-100を交互に繰り返すシグナルをFGは追いかけるわけですが、AとDのノブをひねった分だけ追いつくのが遅くなります。いわばグライドのようなイメージを持つといいかも。
Followはモノマネのモードですから、入力がLFOならLFOのような周期的な機能になるし、入力がAmpなら鍵盤を押すたびに一回だけ動作する非周期の機能になります。「ひとつのモジュールがLFOにもAmpにもなる。発想次第で色々な使い方が出来る」というのがFGの本質的な魅力です。
Follow(Gate)について
「Follow(Gate)」はFollowの派生形です。Follow(Gate)モードでは、“カーチェイス”をするのはGateがOnのとき(≒鍵盤が押されている間)だけ。鍵盤が離されると、離れた瞬間の値でストップします。値100で離れたら次また鍵が押されるまではずっと100、0で離れたら0。いわば「だるまさんがころんだ」状態です。
このように、note offの時には一時停止します。この挙動の差が音に与える影響についてですが、「鍵盤が離れても鳴っている音」って限られていて、リリース音かリバーブ・ディレイの残響音くらいですよね。
例えばFGでフィルターカットオフなりパンなりをウネウネさせていたとして、Follow(Gate)の場合、鍵盤をリリースすると動きが止まるので、リリース音だけがウネウネしなくなるわけです。少し変わった挙動ですから、ふだんはFollowを使うことの方が多くなるのではと思います。
Followモードの注意点
FGはご覧のとおり、挙動が複雑です。仕組みをよく理解するまでは、思っていたのと違う動きをされてしまうかも。
ありそうなのが、FollowモードでのFGが「アタック・ディケイタイムを調整する機械だ」と勘違いしてしまうことです。
こんな風に、入ってきたエンヴェロープのAとDを遅らせる便利装置なのではという期待。でもこうは動作しません。実際はこう。
とにかくFollowは「カーチェイス」です。Ampがディケイタイムに突入して下がってきたところでFGが追いつく。追いついたらば、当然FGはAmpの値をピッタリと追いかけるので、それ以上高い値へ進むことはありません。今回の場合、Maxで50までしか上がらない弱々しい出力信号となります。
また、Ampがリリースに入って急降下・消滅した後も、FGはそれをノロノロとチェイスするので、結果的にAmpにはないリリースタイムが発生します。「ディケイ」という名前でありながら、「リリース」にも影響するわけです。それはここまでに述べてきたFollowモードの仕組みを理解していれば当然分かることですが、「ディケイ」という言葉に騙されてしまいそうになるので注意です。
なかなか複雑なシステムに感じたかもしれませんが、Follow系列はこれでもFGの中では一番わかりやすい部類のモードですよ。
ENV系列
残るENV系列とLFO系列は、どちらも入力信号を「トリガー」として利用します。「トリガー」は、FGが始動したり再開したりするきっかけとなるシグナルのこと。
トリガーの瞬間
「トリガー」は、入力ソースがゼロから正へ動いたときに起こります。
すごく厳密にいうと、Unipolの入力やピッチホイールにおいては、ゼロではなく+2が境界線になっていて、+2をまたいで上へ進んだときにトリガーします。
ですから、入力ソースが「Amp」「Vel」「Gate」などの場合は、鍵盤を押した瞬間=トリガーとなるのでシンプルですが、LFOの場合は波形次第でトリガーのタイミングが変わってきますね。
Envelopeモードについて
それで、Envelopeモードでの挙動について。Envelopeはシンプルで、先述の「トリガー」があると「アタック」と「ディケイ」のエンヴェロープを一回だけ描くという挙動を取ります。
入力をGate、Vel、Amp等にすれば、本当に単なるADエンヴェロープになります。A・Dノブはアタックタイム・ディケイタイムを決定します。今回は分かりやすくイメージどおりですね。
Envelopeモードの注意点
Envelopeモードでの注意点は、その名前に反し、LFOのようにループもしうることです。先述のとおり、FGは「トリガー」を引き金にして動作を開始します。したがって入力ソースがLFOの場合は、周期的に「トリガー」が発信され、そのたびFGも動きます。
この場合、鍵盤を1回押すだけでFGは勝手にウネウネとループして動き続けます。一般に「Envelope」というとつい非ループの曲線を想起してしまいますが、必ずしもそうではないという点には注意してください。
1shotモードについて
「1shot」はEnvelopeの派生形で、1トリガーにつき1回動作する点は同じ。しかしEnvelopeと異なるのは、自分のディケイが完了するまではトリガーを無視するところです。
ひとつ前の画像と見比べて欲しいところ。Envelopeモードでは、たとえ自分が曲線を描いている途中であっても、再トリガーがあればもう一度アタックから再スタートします。律儀なのです。
それに対し1shotの場合は、「いまディケイ中なんだから邪魔すんなや」とばかりにトリガーを無視し、ディケイを完遂します。自分本位なのです。
ですからLFOと動きをより揃えたい場合はEnvelope、ディケイの動きをしっかり出したい場合は1shotがよいという感じです。
LFO系列
LFO系モードのうち基本形であるCycle(Trig)は、ゼロから正への「トリガー」によって起動する点は同じですが、ディケイを終えても待機することはなく、またアタックに戻ってループします。
noteがoffになろうと関係なく、ひとたび始動したらずっとループし続けるので、このモードでは入力ソースが何であろうとループ型の挙動になります。
再トリガーがあるとアタックステージに戻ってやり直す点はEnvelopeと同様です。
Cycle(onoff)について
Cycle(onoff)はCycle(Trig)の派生形で、変わった挙動をします。入力ソースの値が正の時のみ稼働し、ゼロ以下になると値を維持したまま止まります。
そして中断したタイミングがアタックだろうとディケイだろうと、再開する時はディケイからという不思議な仕様になっています。
「だるまさんがころんだ」方式ということでFollow(Gate)と似ていますが、Follow(Gate)はノートのon/offがスイッチなのに対し、こちらは入力ソースの正負がスイッチ。挙動が一番計算しづらいモードがコレではないかと思います。
モードの説明はこんなところ。Hiveには(重複を省くと)約20種類のMod Sourceがありますから、それに6つのモードを組み合わせたら単純計算で120とおりの動き方がある。もちろんLFOやSSQの波形ひとつひとつがまた違ったFGの出力を生みますから、実際の可能性は・・・・数えきれないほどありそうです。
まずは出力結果を予想しやすいシンプルな使い方をするか、あるいはあえて運任せでいじってみるのも面白いかも。
Note Onによる強制リトリガー
これまで説明してきたように、FGは指定した入力ソースが「トリガー」を発信します。しかしそれとは別に、新しいノートを鳴らした際には必ず最初からリスタートする仕様になっています(全モード共通)。
さっき「自分本位」と称した1shotモードでも、新しいnote onがあった場合はおとなしくアタックステージからやり直します。
LFOモジュールだったら「Trig」のメニューがあって、鍵盤に反応する(Gate)か、ビートの周期を優先する(Sync)か選べますが、FGは必ずGateとともにリセットです。
4つの補助出力について
ここまで解説してきた曲線は、すべて「Func1 Env」「Func2 Env」のところから出力されるもの。Func1は他に「Rise」と「Still」、Func2は「Fall」と「Move」という補助出力を持っています。
コレはもう、一言でいえば「オマケ」です。Rise,Still,Fall,Moveは4人とも、自分のルールにしたがって「1(100%)」か「0」のどちらかを出力します。それぞれの「ルール」は、以下のとおり。
ソース | ルール |
---|---|
Rise | FGの出力が上昇中は1、他は0 |
Fall | FGの出力が下降中は1、他は0 |
Move | FGの出力が変動中は1、他は0 |
Still | FGの出力が静止中は1、他は0 |
「静止」というのは、0に限らず数値がどこかで一定のまま変わらない時間を指します。「だるまさんがころんだ」でフリーズしている時もそうだし、Square波やGate、Ampのサステインステージなどをフォローした結果として値が動いていない瞬間はすべて「静止」に含まれます。
RiseとStillがFunc1に、FallとMoveがFunc2に割り振られていることにさほど必然性はなく、別に両方にこの4つを持たせて計8つの補助出力にしたって良かったと思うのですが、そこにあえて制限をかけてFunc1/2それぞれに個性を持たせたのは、モジュラーシンセ的ロマンのようなものだと思います。
こちらはAmpの入力を純粋にフォローする(A,D共に0の)FGに対して4人がどう反応するか。例えばFallは落ちている時だけ1ですから、ディケイとリリースのステージに反応します。あるいはStillだったら、サステインの時と、それからリリース終了後が1になります。
補助出力と数学性
これらは単に「動きの予測しづらいPulse波」として使用してもいいですが、MatrixのViaに挿せば、まるでプログラミングのIF文のように、特定条件下でのみモジュレーションを稼働させるなんてこともできるでしょう。
例えば先ほどのようにAmpをフォローするFGでは、Riseは「アタックの時のみ1、他は0」ですから、これをViaに噛ませれば、「アタック時以外はモジュレーションを無効化する」ことになります。0を掛け算したら何だって0になりますからね。
同じ調子で「ディケイとリリースの時だけ音が揺れる」とか、「リリースが終わった後にモジュレーションが始まる」とか、特殊な動作を簡単に実現できます。個人的にはこの補助出力たちは、数学性をずいぶん意識して作られている気がしますね。
そういえば出力の傾きを分析するというのは、なんだか高校数学の微分を思い出しませんか? 増減表を書いてグラフの概形を描くやつ。
実際Funcの出力の導関数をとってcurrentのphase値を代入してその正負で各々状況を判定してBoolean型変数として保持したものがこの4人かもしれない・・・👨🎓
組み合わせ論
もちろんソースが変わればこの4人が持つ意味も変わってくる。例えばソースにビートSyncしたLFOのTri波をとれば、RiseやFallもまたビートにSyncした規則的なPulse波になります。
これは最も典型的な補助出力の活用法でしょう。FG自体はその特質上、カクカクの入力をウネウネさせることは簡単にできても、逆にウネウネの入力をカクカクさせることは出来ないので、簡単にカクカク波を生成できるこのRise/Fallはいい具合にFGの不足を補ってくれています。
最後に、FGの挙動や注意点をコンパクトにまとめたチートシートも作ってみました😉
もう完全に、「初心者向けの使いやすいシンセ」というフィールドではなくなってしまいましたね…。
とはいえたった5つのパラメータしかないモジュールが、これほどの多様性を生み出すというのはやっぱりスゴい。HIVEが貫くLess is Moreの哲学に適っているともいえます。
まるで音楽がたった12音の組み合わせから無限のバリエーションを生み出すのと同じように、Hive2は限られたモジュレーションを組み合わせておびただしい可能性を生み出すのです。いま最もインテリジェントなシンセ、それがHive2なのです…🌞🌞