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接続系理論 ❸ 2度上行/下行の用法

By 2024.05.19接続系理論

さて今回からは、個別の接続系統を詳しく解説していきます。

1. 2度上下の接続

2aの接続
2bの接続

2度上下はルートの変化が最小のモーションですから、必然的にスムーズかつ穏やかな印象を与えます。その一方、コードトーンが全とっかえになるので、音楽の変化は十分に感じられるのでした。とても使いやすい接続パターンです。

特に何も考えず隣のコードへと移っていけば、それで十分聴き映えのするコード進行が作れます。

IIImIIImIV
IImIIImIVV

その中でもいくつか定番のコード進行を紹介していきます。

4-5-6

まずポップス、ロックや電子音楽など幅広いポピュラー音楽においてド定番で欠かせないのが、サブドミナントのIVからフワッとスタートする、4-5-6の進行です。

機能論で見てもSDTと順調に進むので、とにかく聴き心地がよいです。ずっと2度で動くのでコード進行の主張が激しくなく、その分メロディやサウンドを楽しむことができます。
また多くのコード進行は4個でワンループを作りますので、4-5-6の進行は最後のコードを何にするかで遊びがあります。多いのはVへ進んで完全に22だけで繋ぐパターン、IIImへ進んで切なさをプラスするパターン、Iへ進んで最後はパッと明るくするパターンなどです。

2. 『かつての禁則』について

2はどんなジャンルでも愛用される接続ばかりですが、2には『かつての禁則』が2つあります。

V→IVの接続

クラシック・ジャズのどちらにおいても、Vが緊張のピーク、クライマックスであるという認識は変わりません。このVの進行先として認められているのは、T機能であるIVImのどちらか。またはジャズ系理論においては同じくTとみなされているIIImも候補とされます。

対してVIVという接続はコードの緊張感を「中くらいに緩める」という動作なわけですが、このモーションはクラシック・ジャズでは好まれていません。クラシック理論では多くの書籍で「不可」「避けよ」といった否定の語句が並び、ジャズ理論はことさら禁則とまで言わないものの「一般的でない」「逆行している」といった解説が、そしてその流れを汲む一般音楽理論でもやはり「基本でない」「イレギュラー」といった消極的な説明がなされます1

ブルース、ロックンロールでの使用

しかしその一方でこの進行は、19世紀後半から20世紀初頭にかけてアメリカで発展したブルースと、その血を受け継ぐロックンロールにおいて相当な頻度で使われるようになりました。

こんな感じで、1-1-4-1-5-4-1という進行が、基本のフォーマットのひとつとして広まった歴史があります2

こうしたジャンルのスタイルはそのままロックへも受け継がれており、特にパンクのようなシンプルなコード進行を愛好するジャンルでは、この手のコード進行もよく目にします。ブルースとロックンロールが流行した当時はこのVIVIという進行に対し「けしからん」と思う作曲家や理論家もいたことでしょう。

VIVI

でもブルースの誕生から100年以上経った今となっては、この進行はあまりにも日常的な語彙としてポピュラー音楽の中に生息しています。

レゲエでの使用

ほかレゲエでもV→IVの進行は馴染みがあり、用例をたくさん見つけることができます。

特にロックンロールの基本形式にないところでいうと1-4-5-4という進行が散見されるのが特徴的で、上のサンプルの中では「Put It On」「Let Me Love You」「Red Red Wine」「Money 2 Burn」などがこれに該当します。

5-4-1の曲想

VIVIという流れは、VIが持つ強烈な着地感を緩和し、より柔和にしたようなものと考えると分かりやすいです。VIだとちょっとエネルギーが強すぎるなという時に、IVが間に入ってクッションのような役目を果たすイメージです。

IVIVI

VIの強力な解決を回避してIVIの穏やかなモーションでIへと至るので、優しい感じ、平和な感じを表現するのにこの進行はぴったりです。

例えば童謡「ともだちになるために」の冒頭で、この進行が見られます。「友愛」というテーマがもつ穏やかな美しさを、VIVの“クッション”が見事に表現しています。

6-5-4

もうひとつVIVの接続が普通に使われるパターンとして、VImから順に降りて6-5-4と進行していくパターンがあります。

当然こちらの方がダークな曲調になりますね。これも4-5-6の進行と同じように、4個目のコードで色々と遊ぶ余地があります。6-5-4-5とすれば2度の接続オンリーの非常に穏やかな進行になりますし、6-5-4-32をさらに連鎖させたり、6-5-4-1で一旦トニックに着地する形も効果的です。

6-5-4-3-2-1

これをさらに発展させて、2をひたすら繰り返してVImからIまで下がりきってしまう進行もあります。

こうした進行におけるVIVの接続は、VImから順に下がってきているという文脈の助けもあってか、不自然に感じるようなことは、ほとんどの人にとってはまあないはずです。

IIIm→IImの接続

もうひとつ古典派の思想だと認められないのが、IIImIImの接続です。実はクラシック理論においてIIImの模範的な進行先はVImIVの二択しか認められておらず、他は基本的にみな禁則となります。とはいえこちらも2度のなめらかな結びつきというのがあるので、実際にはさほど気にすることなく使用できます。特に定番なのは、4-3-2-1と順に降りていく形です。

IVIIImIImI

そのほか例えば「Cake By The Ocean」というヒット曲では6-3-2-4という進行が用いられています。

これといった違和感はないですよね。こんなふうに、ポップスから童謡まで、古典派の「禁則」が効果的に破られている例はあります。けっきょく重要なのは、「表現したいもの」と「曲想」が正しく合致しているかどうかです。いくら権威ある確立された理論だとしても、時代の変化には勝てません。我々の感覚も、ドンドン変わってきているのです。

だから22に関しては特にかつての禁則がどうというのを気にせず自由に使用して何ら問題は生じないでしょう。ただクラシック調の作品を作りたいというときにはこうした禁則を封印してあげると、より本格的な作風に仕上げることができます。

まとめ

  • 22はルートの変化が最小のため穏やかかつスムーズにコードを進行させることができます。
  • それと同時に、コードトーンが全交換となるため、彩りが豊かな印象も与えます。
  • かつて禁則とされたV-IVとIIIm-IImは、DからSへの「高揚の抑制」という特別な効果を持っています。
  • 2にまつわる禁則は破ったとて違和感を生じる可能性が低いため、およそ気にせずに使用して大丈夫です。
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