接続系理論 ❻ D型の諸用法

音楽理論 接続系理論

接続系統は、全部で5種類。A型、B型、C型と来て残りは2つです。今回扱うのは、「D型」。D型は、3度下へとDrop(落下)する接続法でした。

D型

D¹の接続

D型は以前述べたとおり、構成音の変化が少なく、安定したサウンドの展開をもたらすのでした。D¹の接続はいずれも聴き心地がよく、A¹・B¹・C¹と共に基本的な進行のひとつに数えられます。

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こちらはD¹を活用した定番の進行。非常に落ち着きがあり、Aメロで使うのが最も一般的。ちょっと落ち着きがありすぎて、最近の曲ではあまり使われなくなっている印象です。1-6-4-5で一曲まるまる押し通したことでおなじみなのが、「スタンドバイミー」。

やっぱり盛り上げすぎない落ち着きがD¹の魅力。

こちらはポリスという80年代にヒットしたスリーピースバンドの代表曲。イントロとAメロで1-6-4-5を使っています。D型は共通音が多くサウンドの変化が少ないという話を以前にしましたね。そのため、かなり落ち着いたトーンに聴こえます。

共通音D型は共通音が多い

四大接続

A¹・B¹・C¹・D¹の4つは、概ねクラシックの時代からずっと使われ続けて来た、最も聴き馴染みのあるコード進行たちですから、これらを使っていれば、J-Popなどの高い大衆性が要求されるジャンルでも十分受け入れられる、「安心安全のコード進行」が作れます。

  • IImVIVIm
  • IVIIImVImV
  • IVIVVIm
  • IIImVImIImV
  • IVIIImIVIIIm

こんな風にね。この4接続だけでもかなりのバリエーションを作れることがわかります。実際、90年代のJ-Popを彩った王道のコード進行たちは、そのほとんどがこの4タイプの接続だけで作られています。この4つの接続種のことを、敬意を込めて以後は四大接続と呼ぶことにします。

D²の接続

さて、対するD²の接続は、30種類の接続法のうち、最も使いこなすのが難しいものです。

D²

古典派理論・一般音楽理論では禁則扱いで、21世紀の今でも極端に用例の少ない、レアな存在。こればっかりは、他の“2族”とは違って、気軽に使うことをオススメできません。まだ使用例も少なく、聴き手がこの響きに慣れるのにはもう50年ほどかかりそうです。

とはいえ、自由派に禁則はありません。数少ないながら、この不安定なコード進行を逆に活用している曲例を紹介します。本当に使いどきの少ないコード進行なので、興味の無い人は読み飛ばしちゃってもOKですよ。

IIIm → I = 唐突な着地

IIImはすごく暗さのあるコードですから、普通はIVIImへ進んで切ない風の展開を作るか、VImへ進むことで暗い世界として一旦落ち着くのが定番です。

つまりIIImIという接続は、聴き手が「もうしばらくは切なくて暗い流れが続くかな・・・」と予期しているところで、いきなり明るい方に振れてドシンと着地してしまう形です。それが妙に情緒不安定な感じで、なかなか表現として成立しづらいのです。

Paradise

東京事変の「電波通信」は、そんなIIImIを活用した理想例です。「君と相互作用(インタラクティブ)」というところでIIImを使い、そして「すぐ干渉過多(ハイパラクティブ)」という歌詞と共に、すぐにIへ行ってしまう。
歌詞とコードのマッチングがとても秀逸です。ほんとは「相互作用」したいのに、「干渉過多」によって遮られて、思わぬ方向へいってしまうんですよね。その「予期しない衝突」を表現するのにこの接続はぴったりです。並のコード進行では、この「メンヘラ感」はなかなか出せません。

こちらはとても有名なビートルズの曲ですね。サンプル冒頭のサビ(?)部分に注目です。

Hard Days Nightの楽譜

2回目の「When I’m home」へ行くときに、IIImIと動きます。これも秀逸な用例と言うほかない。そこまでずっとマイナーコードでタメにタメて、ここで初めて「家族が待っている家に帰ってきた歓びと安心」を解放させているのです。
これがIIImIという唐突な接続であるからこそ、「ドアを開けた瞬間疲れた気持ちが吹っ飛ぶ」感じがものすごくダイレクトに伝わります。

ビートルズの曲には、古典理論にそぐわないものがたくさんありますが、それを「例外」で終わらせずにきちんと分析すると、こんなふうに「なぜそれがうまく成立しているか」が見えてくるものです。

Paradise

こちらはサビ冒頭8小節をかけて1-3-1-3という進行をしています。これも歌詞とのマッチングが見事。この曲はよくある失恋ソングで、「一人っきりで貴方に会いたい。電話しないって言ったけどもうこの気持ちが抑えられない」という、クヨクヨして迷いまくっている曲です。

もちろん古典的な感性で言えば、ろくに盛り上がりもせず、中途半端なIIImに行ってまたIに戻っての繰り返しなんて、絶対にありえない。でも、この歌詞のテーマだったらそれがピッタリじゃないですか。
クラシック時代には無かった心情の表現には、クラシック時代にはないコード進行が必要。これはその典型例です。

Paradise

こちらは海がテーマの曲で、前の3つとは表現したいものが違います。水平線がもつ空間的な雄大さ、海が持つ穏やかさを音にしたい。だから、Vとか使っちゃうと動きがクッキリと大きすぎる。かといって、C型では穏やかすぎて、海を表現するには弱い。そこで、出てくるのが3度の上行下行というわけ。結果、IIIIImIというメチャクチャ変わったコード進行を使っています。これも「サッと打ち寄せては引いていく波」のようで、素敵です。

こんな風に、特殊な曲想を活かす下地がないと、なかなかその「情緒不安定さ」を活かせないのが、このIIImIという接続です。よっぽどこの曲想を要しているのでなければ、素直に封印しておくのが良いと思います。

総括
  • Drop Nexusは、共通音が2音と多く、ルートの移動量も3度と中庸なので、非常に安定感があります。
  • A¹・B¹・C¹・D¹は、ほとんど全ての流派の理論で許容されており、時代を超えて使われ続けている進行です。この4つを便宜上「四大接続」と呼びます。

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