調性引力論 ❹ 声域区分法

メロディ編 Ⅰ章:構造の分解

さて、前回は「原質(Kernel)」という概念の紹介と、それぞれを最高音にあてた時の曲想の違いについて解説しました。しかしもちろん、最高音をチェックしただけではメロディを分析したとはとても言えない。他の部分をどんな風に見ていけばいいのか? その道しるべとなるのが、今回紹介する「声域区分法」です。

#1.音域とメロディ構造

「トーナル・センター」と「調性引力」、そして「カーネル」という認識のもとメロディを分析していくと、特に歌モノのメロディラインが基本的に持っている、漠然とした「型」のようなものが浮かび上がってきます。

域

例えばこんな風に、下のソからオクターブ上がって、裏声ならさらにその上のミまでは出せるぞという人間がいたとします。
「声域区分法」の考え方はいたってシンプル。トーナル・センターであると、引力の境目であるファとソの間で声域を区分していく方法です。

域

今回は4区分に収まったので「低域・中低域・中高域・高域」とラベリングしましたが、5区分であれば真ん中に「中域」を足せばいいし、6区分なら上下に「最低域・最高域」を足せばいいでしょう。名前はさして重要ではありません。

声域を区分したことで、さらに一歩先へ進み、スタンダードな音域の目安というものを意識することができるようになります。

低域〜中低域

low

例えばAメロはこの「低域〜中低域」を基本に据えれば、かなり安定感のある、定番のメロディラインが作れます。Tonal Center(Low)を中心に、あまり広がりすぎずコンパクトに構成すると、後に展開を残すことができますよね。

カーネルに関して言うなら、やはり「ファ」が一番強い情緒を持っていますから、これをどのタイミングで放り込むか、あるいは「四抜き音階」にしてしまうのかといったところで、センスが問われます。

場合によっては中高域の音を跳躍進行でちょこっと入れてあげたりすると、スパイスになりますが、やりすぎると以降どうやって盛り上がりを作っていくかで悩むことになるので注意です。

中低域〜中高域

mid

それで、Bメロに行くと「中高域」の頻度を上げ、他方「低域」を減らしていけば順当な盛り上がりを得ることができます。この時点でTonal Center(High)への終止を使ってしまうのか、まだ節約しておくのかで、今後の配分が変わってくるわけですね。

ここで終止したらば、Bメロの段階でひとつの小さなクライマックスを迎え、サビは当然それよりも高い音で盛り上げることになる。一方ここで終止を節約しておけば、気持ち良いセンターへの終止を、サビのアイテムとして使えることになります。

中高域〜高域

high

でもってサビでは「高域」をしっかり使って盛り上がりを作るわけです。その使い方が「順次進行」なのか、あるいは「ストライド」を伴う跳躍なのか、また地声なのか裏声なのか。そういったことを考えていくことになります。

盛り上がるタイプの曲であればこの声域に留まりっぱなしでいいし、バラードでは適度に中低域を挟んでドラマ性を高めているパターンもよく見られます。

このように、各オクターブのトーナル・センターと、ファとソの間にある引力の転換点を基準に音域を区分し、それに基づいて各パートのメロディの展開を考えたり、あるいは分析したりする方法を、「声域区分法」と呼びます。これもやっぱり、自由派音楽理論独自のものです。

使い方は自由

もちろん声域区分法は、上記のような配分にする“べきである”と主張するものではありません。このような配分がスタンダードであると認識したうえで、それを破るのもアリ。
ただ例えばAメロでがっつり高域を使うのであれば、サビまでのバランスをどこで補うのか? もしくはあえてサビを上げない曲にするのか? 考えた方がいいわけです。

実際問題、気ままにラインを作っていたら1オクターブを使い切るなんてあっという間です。たった7音ですから。

配分に問題あり

ですから、メロディ編の初回でバスケに喩えて説明しましたが、窮屈でも最初は意識して作った方が良いのです。そこで良いバランス感覚を身につけさえすれば、そこから先は無意識でもやれるようになります。

#2.実際に曲を分析する

さて・・・こんな机上の空論でメロディメイクは語れないって思いますか?ではここからは、実際の曲を「声域区分法」を中心にして分析してみましょう。
音域の使い分けはもちろんのこと、カーネルの活用、トーナルセンターへの終止やストライド跳躍の頻度とタイミングなどにも細かく注意してみてみましょうね。

AKB48 – ヘビーローテーション


AKB48最大のヒット曲で、歌いやすいシンプルなメロディが特徴ですよね。一聴すると簡素で単純、工夫のないメロディにも思えますが、基本に忠実に作られた曲です。

Aメロ

ヘビロテ Aメロ

「ポップコーンが〜」からのところのメロディを、ピアノロールにおこしてみました。1周目はドを中心に上下3度、つまりラ〜ミに収まっていて、順次進行が多く、抑揚はかなりおさえめ。
2周目は最後にファまで上がることで小さな盛り上がりを作ります。最も強い傾性音であるファのキャラクターをきちんとピンポイントで活かしています。見事に「低域〜中低域」に収まっていることがわかります。

Bメロ

Bメロはいきなりラからスタート、中高域に突入して高揚感を演出します。Aメロとのメリハリ作りですね。サビ前も、ファでちょこっと盛り上げています。
ヘビロテ Bメロ

サビ

そしてサビは、最初が「ドレミ ドレミ」それから「ミファソ」で段々と高揚し、そのあとやはりラの音が最高音として登場します。「ハイテンション」のところと、肝心のタイトルコール「ヘビーローテーション」部分は、また第Ⅳ音でちょっとしたヤマを作っています。

ヘビロテ サビ

音域は狭めが基本のアイドルソングですから、オクターブ上の中心音に終止したりすることはありませんでした。ただ、非常に明確な役割分担は見えましたね。要約するとこうです。

  • 基本はドレミ周辺の少ない抑揚でまとめる
  • ファが「盛り上がり(小)」担当
  • ラが「盛り上がり(大)」担当

この「ドレミと、低域のラ・シで骨格を作る」「ファとラで安定感を揺らがせて展開をつくる」というのは、メロディ構成のひとつの定番パターンです。また、「ストライド」には着目しましたか? 見てみると、各パートの終わりの跳躍のところで必ずストライドが発生していることも分かります。その辺りも統一感があって、聴き手にとっては非常に分かりやすい。

ですから、シンプルで狭い音域の中でちゃんとした抑揚を構成していことが、聴きやすさに繋がっているわけですね。ちなみに、「恋するフォーチュンクッキー」も、かなり似た形のメロディ構成になっています。
アイドルソングは音域もそこまで広くできませんから、なおさらメロディの要素はムダ撃ちできないのです。

Oasis – Wonderwall

有名ロックバンドOasisの代表曲のひとつ。地味ながら耳に残るメロディですが、こちらも役割分担がしっかりしている!曲のテーマ性は全く違いますが、構成技法としては意外にもヘビーローテーションと似ています。比較しやすいよう、Cメジャーキーに移調して分析します。

Aメロ

Aメロは37秒から。やっぱり「ドレミ」の3音が基本ですが、後半は中高域に早々と突入し、盛り上がりを作っているのがユニークな点です。実はこの曲、Aメロのココが最高音なのです。かなり珍しいペース配分になっています。

Wonderwall Aメロ

ここは淡々と余計な情緒を作りたくない場面なので、ファとシを避けて四七抜き音階にしていることも分かります。ストライドも全くなし。また、レの音がとても多く、これも落ち着かない感じがして、独特の情感に貢献しています。

だから、かなりシンプルで単調であるように見えて、きちんと曲想の演出のためにやるべきことをやっているのです。特にポイントなのは、カーネルに対する感度の高さ。これがセンスってことなのだ!

Bメロ

Bメロでは、音程的には終始低調ですが、はじめて導音が登場することで情緒をかなり強めています。このパートから入ってくるギターのフレーズも、導音を強調していて、歌との一体感があります。つまり、ここでもカーネルが抜群に活かされている。

Wonderwall Bメロ

そして、後半の盛り上がりでは、そこそこ大きめの上行跳躍ストライドで盛り上がりを作っています。本当に、要素を盛り込むタイミングが上手なのです。

サビ

メロディ的には大して盛り上がらないのがこのワンダーウォールという曲の魅力です。サビでも基本は低域〜中低域。そして盛り上げ役に「ソ」。さらに、最も不安定であるファが繋ぎに使われているのもポイント。ファはこのサビで初登場ですからね。

Wonderwall サビ

こんな風に、細かく分析してみると、いかにピッシリと音程のメリハリのつけられているかが分かります。
このBメロ、こんなに地味なのになんで心惹かれるのか? それは、Bメロだけが理由ではない。導音の全くないAメロという伏線があってのBメロなのです。

サビも、なんでこんなに”After all”の部分がかっこいいのか? それはただ単に最高音をヒットしているからというだけではありません。最高傾性音のファが初めて鳴り、下方引力に逆らってソまで上がる。そのとき、モノクロの音世界の中に一瞬だけ心の内側が見え隠れするような情感が、絶妙なのです。

ちなみにオアシスのもうひとつの人気曲である「Don’t Look Back in Anger」も、「ドレミで回すメロ、ソで盛り上げるサビ」という類似の構成をしています。
さほど音域が広くないアーティストの場合、派手な跳躍などでベタな盛り上がりを作ることができません。その不自由さが、逆にカーネルやストライドに対して敏感な感性を育てるのかもしれませんね。

スピッツ – ロビンソン

最後に、音域が広いアーティストの場合も見てみましょう。

上記2例と違い、切ない雰囲気の曲です。当然メロディにも切なさを演出する要素があるんですよ。

Aメロ

Aメロは「ソラで最大の盛り上がりを作り、ドレミで回し、ファが押さえの小盛り上がり」というこれまでと同じ構成。ただ音域が広いので、Aメロの時点でドレミファソラを使い切っているのはポイント。

ロビンソン Aメロ

それから、中高域へはみ出すタイミング以外は、かなり順次進行が多いのもポイント。引力にしたがってユラユラ揺れ動いている感じですね。

Bメロ

Bメロは順次進行が印象的であるとともに、強い傾性音であるファの音の頻繁さが目立ちます。Bメロらしく、揺さぶりに来ているのです。そしてサビ直前では、上のトーナルセンターに跳躍上行で終止しています。

ロビンソン Bメロ

先二例では音域の制限上出来なかった「上のトーナルセンターへの終止」をBメロで使うという、豪勢な展開です。音域が広いからこそ出来るやり方。とはいえBメロの段階では決してストライドせず、高域へ突入しないというのがポイント。きちんとサビに「手札」を残しているのです。

サビ

そしてサビでは、Bメロとは逆に導音がキーになる箇所が非常に多いのが特徴。メインとなる傾性音を使い分けています。

そして前2曲では「ソラ」が最高音でしたが、この曲ではついに高域である「レ」まで突入しています。コード編を学ぶと分かることですが、ここではメロディの着地にあわせてコードも着地していて、相乗効果を生み出しています。

ロビンソン サビ

ただ、コレで安定して終わっては一押し足りないだろうということで、最後にもう一つ上のミに裏声で行ってさらに情緒性を付加するという寸法。

ロビンソン サビ2

ここでは「レ」と「ミ」のカーネルの差もきっちり曲調に活きています。傾性のないミに突入したことで、まさに引力から解き放たれた宇宙的な高さが感じられます。


こうして声域区分法に基づいてメロディを観察すると、どの曲もABサビそれぞれの特徴の付け方、盛り上がりアイテムの配置が絶妙なバランスになっていることがわかります。

もちろんメロディを作るときにこんな細かいこと考えながら作っていたわけはなく、センスの賜物ですが、しかしその「センス」の正体、「いいメロディ」の正体をここまで明らかに描写できる、「引力・傾性・原質」のメロディ分析理論の力は、侮れないものがあるのです。

私たちも、いざ作る時にこんなチマチマしたことを考えていては話になりません。メリハリのある構成、ドラマティックな展開、カーネルへの敏感な聴覚。そういったものを常から磨いていくことで、「良いものが自然と出てくる身体」にまで身体感覚を鍛え上げることが重要です。メロディ理論は、そのためのトレーニング器具なのです。

総括
  • それぞれの音程の持つカーネルを活かした配置が成されていると、曲想がよく伝わります。
  • トーナルセンターと引力方向を元に声域を区分してメロディを分析する「声域区分法」は、メロディの抑揚を解析するにあたって非常に有効です。
  • 音域を意識的にコントロールすることで、盛り上がりを配分するセンスを高めていけます。
メロディ編 I章はここで修了です! おめでとうございます。次にどの編へ進むか、あるいは制作や分析の期間を設けるかを考えながら進んでください。

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