音楽理論の歴史と流派 ❷

音楽理論 序論

さて、前回分をまとめるとこうです。

歴史その1

3世紀に渡っていますが、その変化のスピードはゆっくりです。ただここからは本当に目まぐるしく音楽が進化していきますよ。

20世紀①:現代音楽の誕生

20世紀初頭にはもうすでに装いは現代的になり、ピアノ曲なんかであればもう現代の音楽と全く区別がつかないほどです。

こちらは1901年のラヴェルの曲ですが、この美しいテーマ部分はすごく現代的で、「去年の映画のサウンドトラックだよ」って言われても、信じちゃいますよね。

これだって、「久石譲さんによる新しい日本茶のCMソングです」って言ったら、そんな風に聴こえてきちゃいます。しかしこれは1903年にドビュッシーという作曲家が、東洋の音楽の影響を受けながら作ったもの。こうやって異国情緒を取り込むなんてプロセスも、100年以上前に既に行われていたわけです。

20世紀の頭で早くも現代のサウンドまで辿り着いてしまった。じゃあそこから先どうなったか? クラシックの進んだ先は、さらに前衛的な音楽。いわゆる「現代音楽」と呼ばれるものたちですね。

こちらはベルクという近代の作曲家が1935年に作った作品。21世紀の今聴いても、かなり前衛的に聴こえますね。現代音楽の作曲家たちは新しく独自の作曲理論を組み上げ、クラシック界はついに古典派理論と完全に決別するのです。

20世紀②:ジャズの誕生

そしてほぼ同時期に、クラシック以外の音楽も、様々な広がりを見せはじめます。1900年初頭からはレコードも普及しはじめましたから、この辺りから加速度的に音楽を取り巻く世界が変わっていくのであります。
なかでも音楽理論の歴史上で決定的と言えるのは、ジャズの誕生と発展です。ここからは、ジャズのムーブメントを覗いていきましょう。

ブルースがルーツとされ、19世紀末頃から広まった「ジャズ」が、ここからはクラシックにとって代わって大衆音楽理論をリードしていくことになります。

特に1940年頃に「Bebop(ビバップ)」という一大ムーブメントが起こり、「即興演奏」「より濁った和音の許容」「頻繁な転調」など、古典派クラシックとは根本的に異なる哲学のもと、より先進的な音楽を追究する動きが盛んになりました。ここで発展した音楽が、後にジャズ理論となるのです。

確かに、こちらは「A列車で行こう」よりも複雑性を増していることが一聴して分かります。これでもまだジャズの中では分かりやすい方ですけどね。ジャズ界では一般に、Bebop以降のジャズのことを「モダン・ジャズ」と称して呼び分けます。それほどこのジャズ理論はショッキングだったんですね。

より自由で高度なジャズ理論の誕生。これで世界は「ルール」から解放されたのでしょうか? いいえ、そんなことはありません。むしろ、正反対です。ジャズの登場により、音楽界はもっともっとルールの多い世界に変わっていくのです。

1940年代 : さらなるルール世界へ

いくら「もっと自由な音楽」と言っても、「デタラメに弾いた演奏が評価されるようでは困る」とジャズプレーヤーたちは思いました。だから彼らは、ちゃんと理論的に考えながら音楽を発展させていきました


上はその理論に基づいて成された演奏、下はデタラメな演奏。ハッキリ言って、音楽理論に精通して音感を鍛えた人でないと、違いはなかなか判りません。でも、そうだからこそジャズにとって理論による“裏付け”は大切でした。「自分たちがやっているのは決して適当ではなく、高度なアートなのである」というのを証明するためにも、「理論的根拠」がすごく重要だったのです。1

「デタラメな演奏」と「前衛的な演奏」は区別しないといけない・・・そう、その時「理論的に解釈できない音楽はダメだ」という考え方がこの世に芽生えたのです。

アドリブとデタラメ

さらに重要なのが、即興演奏という新しい文化。これを成立させるには、ちゃんと「このコードの時に使っていい音」みたいなルールを決めておかないと上手くいきません。その結果、「使っていい音とダメな音がある。それを知らないと、正しい音楽は作れない」という考え方も自然と生じてきました。

「高度な即興演奏」が、さらなるルールを生み出した

もちろんこの辺りのルールはジャズ界が勝手に作ったものですから、クラシック界には関係ありません。だから今我々が音楽理論を学ぼうとするとき、クラシック系を選ぶかジャズ系を選ぶかによって、辿る道筋は全く変わってしまうんですよ。

20世紀後半:ポピュラー音楽時代の到来

そしてBebopも1950年代にはおおよそ発展を終え、今度はロックンロールが台頭し、1960年代には、ポピュラー音楽のシンボルと言っても過言でない、ビートルズが登場します。私たちに馴染みのある、本当の「ポピュラー音楽」の時代の始まりです!

ここまで来るとようやく、現代の音楽との類似性、繋がりがようやく感じられますね。こうして聴くとやっぱりポピュラー音楽というのは、ジャズやクラシックの子孫というよりも、完全に新しいフォーマットの音楽であるといえます。
ジャズはそれからもさらに発展していきますが、「大衆音楽」としての看板はロックやポップスに明け渡し、より独自の路線を突き進んでいくことになります。

先ほどのBebop時代よりも、さらに前衛的になっていますね。ジャズもクラシックも、芸術性を追求していって最終的には「ポピュラー」の世界から離脱していったということです。

歴史

ハイ!よくぞここまで読み通してくれました。2500年ぶんの超スピード歴史探訪はこれでおしまいです。いかがでしたか? 意外に感じる部分もきっとあったはずです。

エッていうか1960年で終わり?ここから先は?

ここから先は、ポップスが生まれテクノが生まれ、音楽は多様化していきますが、ポピュラー音楽に関する理論はほとんど進化していません。ここまで理論を真剣に考えてくれたクラシック界・ジャズ界どちらもポップスとは離別してしまいましたからね。ガチで研究してくれる人がいなくなっちゃったわけです。

その「進化止まってる問題」についても追求しなきゃいけないんですが、ひとまずは、ここまでの話を踏まえて、改めて音楽理論の「ルール」って何なのか。そこに話を戻していきましょう。

#5 ルールの正体

そんなわけで、今現在でも「音楽理論」と言えばまず「古典派理論」と、「モダン・ジャズ理論」が”二本柱”として立っていると思ってもらえれば、イメージとしてかなり実像に近いと思います。

二本柱

もちろんジャズやクラシックにしたって、その流派はひとつではありませんし、ここから派生して生まれた理論だっていくつもあります。例えば最近ちょこちょこ耳にするバークリー音楽大学の「バークリー・メソッド」と呼ばれる理論も、ジャズ理論の亜種です。

そう、音楽理論って、ひとつじゃないんです単一の「正しい音楽理論」なんて存在しません

それは音楽に限らず、理論とはそういうもの。例えば経済学なら、ミクロ経済とマクロ経済があって、さらには「ケインズ派」「新古典派」といった派閥が存在します。ましてやアートである音楽。方向性の違いに応じて理論も違ってくるのは、当たり前の話ですよね。

「唯一絶対」の音楽理論など存在しない

確かに「こう弾くと明るくなる」「暗くなる」なんていうのは、全ジャンル共通の法則と言えます。でも、「このコードの次はこれに行くべき」といったほとんどのルールは、クラシックやジャズの世界でしか通用しないただのローカルルールなんです。

そしてそのルールの中身というのは、大雑把に言ってしまえば、まずクラシック界が作った「万人にとって聴きやすい音楽の方法論」。それからジャズ界が作った「複雑な転調や即興演奏の方法論」ということです。


さて、音楽理論指導者たちが当然のように教えている「ルール」が、いつ、何のために作られたのかが分かって、ちょっとスッキリしましたね。でも、これを知ったことでまた色々なモヤモヤがわいてくる感じもします。たとえば・・・

こんな風に流派が分かれてるなんて初耳なんですけど。「音楽理論」っていうひとまとめでしか聞いたことなかったんですけど。

じゃあポピュラー音楽向けの流派っていうのも、別にあるってことか?

けっきょく勉強した方が得なのか損なのか直ちに教えナサイ。

そうですね。次に明らかにしないといけないのは、世間にたくさんある、流派のよくわからない「音楽理論」のことです。その中身はいったいどうなっているのか?
これを紐解くために、次は「音楽理論を教える人たち」に、激しくメスを切り込んでいく必要があります。それを知ることで、音楽理論を覆っているモヤモヤがもっともっと晴れていきますよ。

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