音楽理論の歴史と流派 ❷

音楽理論 序論

さて、前回分をまとめるとこうです。

歴史その1

3世紀に渡っていますが、その変化のスピードはゆっくりです。ただここからは本当に目まぐるしく音楽が進化していきますよ。

20世紀①:現代音楽の誕生

20世紀初頭にはもうすでに装いは現代的になり、もう21世紀の音楽と全く区別がつかないほどです。

こちらは1918年にリリースされたラヴェルの曲ですが、ファンタジックでワクワクするリズムやメロディはすごく現代的で、「去年のアニメ映画のサウンドトラックだよ」って言われても、信じちゃいますよね。

これだって、「今年の新しい日本茶のCMソングです」って言ったら、そんな風に聴こえてきちゃいます。しかしこれは1903年にドビュッシーという作曲家が、東洋の音楽の影響を受けながら作ったもの。こうやって異国情緒を取り込むなんてプロセスも、100年以上前に既に行われていたわけです。

20世紀の頭で早くも現代のサウンドまで辿り着いてしまった。じゃあそこから先どうなったか? クラシックの進んだ先は、さらに前衛的な音楽。いわゆる「現代音楽」と呼ばれるものたちですね。

こちらはベルクという近代の作曲家が1935年に作った作品。21世紀の今聴いても、かなり前衛的に聴こえますね。現代音楽の作曲家たちは新しく独自の作曲理論を組み上げ、クラシック界はついに古典派理論と完全に決別するのです。

20世紀②:ジャズの誕生

そしてほぼ同時期に、クラシック以外の音楽も、様々な広がりを見せはじめます。1900年初頭からはレコードも普及しはじめましたから、この辺りから加速度的に音楽を取り巻く世界が変わっていくのであります。
なかでも音楽理論の歴史上で決定的と言えるのは、ジャズの誕生と発展です。ここからは、ジャズのムーブメントを覗いていきましょう。

ブルースがルーツとされ、19世紀末頃から広まった「ジャズ」が、ここからはクラシックにとって代わって大衆音楽理論をリードしていくことになります。

特に1940年頃に「Bebop(ビバップ)」という一大ムーブメントが起こり、「即興演奏」「より濁った和音の許容」「頻繁な転調」など、古典派クラシックとは根本的に異なる哲学のもと、より先進的な音楽を追究する動きが盛んになりました。ここで発展した音楽が、後にジャズ理論となるのです。

確かに、こちらは「A列車で行こう」よりも複雑性を増していることが一聴して分かります。ジャズ界では一般に、Bebop以降のジャズのことを「モダン・ジャズ」と称して呼び分けます。それほどこのジャズ理論はショッキングだったんですね。

即興演奏とルール

複雑性という観点では、近代クラシックもジャズに負けていません。だから革新的だったのはやっぱり「即興演奏」という部分です。細かく一音一音が楽譜で決まっていない状況で、音楽を作り上げる。しかも、頻繁に転調しながらです。もしおのおのが気の向くままにプレイしたら、すぐにお互いの音がぶつかり合って気持ち悪い音楽になってしまうことは、想像に難くないでしょう。

こちら自由に演奏しているように見えて、ちゃんと全員で音が合うように示し合わせて演奏をしています。基本の枠組み、考え方、そしてお互いにコミュニケーションを取るための言語として、新しい理論が必要になったのです。
ジャズ理論は、クラシックの理論から多くの用語や概念を引き継ぎましたが、即興ならではの部分は自分たちで追加していったし、頻繁な転調にも耐えうるようなシステムとなるように、細部まで改造されていきました。すなわち、新しい流派の誕生です

ですから今我々が音楽理論を学ぼうとするとき、クラシック系を選ぶかジャズ系を選ぶかによって、内容はけっこう変わってしまうんですよ。共通部分もありますが、逆に基本中の基本レベルで考え方が食い違っているところもあります。

20世紀後半:ポピュラー音楽時代の到来

そしてBebopも1950年代にはおおよそ発展を終え、今度はロックンロールが台頭し、1960年代には、ポピュラー音楽のシンボルと言っても過言でない、ビートルズが登場します。私たちに馴染みのある、いわゆる「ポピュラー音楽」の時代の始まりです!

ここまで来るとようやく、現代の音楽との類似性、繋がりがようやく感じられますね。こうして聴くとやっぱりポピュラー音楽というのは、ジャズやクラシックの子孫というよりも、完全に新しいフォーマットの音楽であるといえます。ジャズはそれからもさらに発展していきますが、大衆音楽としての看板はロックやポップスに明け渡し、より独自の路線を突き進んでいくことになります。

先ほどのBebop時代よりも、さらに前衛的になっていますね。芸術性を極めるにつれて大衆から離れ、「ポピュラー」の座を譲るという歴史を、クラシックもジャズも辿ったことになります。

歴史

それから音楽はみるみるうちに多様化していきましたが、音楽理論の世界がこの変化に伴って、またジャズの時のように新しい理論系を生み出したかというと、残念ながらそうはなりませんでした。
理論が改革されなかった理由はたくさん考えられますが、例えば専門的な研究をする組織が少なかった、スタイルの変化・多様化が速く体系にまとめられなかった、音楽がシンプル化したので理論を学ばなくても良くなったなどなど、ありそうな要因はいくらでも挙げられます。ともあれ、ポピュラー音楽のための「第三の流派」が生まれることはなかったのです。

#5 ルールの正体

そんなわけで、今現在でも「音楽理論」と言えばまず「古典派理論」と、「モダン・ジャズ理論」が”二本柱”として立っていると思ってもらえれば、イメージとしてかなり実像に近いと思います。

二本柱

もちろんジャズやクラシックにしたって、その流派はひとつではありませんし、ここから派生して生まれた理論だっていくつもあります。例えば最近ちょこちょこ耳にするバークリー音楽大学の「バークリー・メソッド」と呼ばれる理論も、ジャズ理論の亜種です。

そう、音楽理論って、ひとつじゃないんです単一の「正しい音楽理論」なんて存在しません

それは音楽に限らず、理論とはそういうもの。例えば経済学なら、ミクロ経済とマクロ経済があって、さらには「ケインズ派」「新古典派」といった派閥が存在します。ましてやアートである音楽。方向性の違いに応じて理論も違ってくるのは、当たり前の話ですよね。

「唯一絶対」の音楽理論など存在しない。確かに「こう弾くと明るくなる」「暗くなる」なんていうのは、全ジャンル共通の法則と言えます。でも、「このコードの次はこれに行くべき」といった類のものはあくまでもクラシックやジャズの「型」であって、あえてルールという言葉を用いるなら、それは「ローカルルール」に他ならないのです。


さて、音楽理論指導者たちが当然のように教えている「ルール」が、いつ、何のために作られたのかが分かって、ちょっとスッキリしましたね。でも、これを知ったことでまた色々なモヤモヤがわいてくる感じもします。たとえば・・・

こんな風に流派が分かれてるなんて初耳なんですけど。「音楽理論」っていうひとまとめでしか聞いたことなかったんですけど。

じゃあポピュラー音楽向けの流派っていうのも、別にあるってことか?

けっきょく勉強した方が得なのか損なのか直ちに教えなさい。

そうですね。次に明らかにしないといけないのは、世間にたくさんある、流派のよくわからない「音楽理論」のことです。その中身はいったいどうなっているのか?
これを紐解くために、次は「音楽理論を教える人たち」に、激しくメスを切り込んでいく必要があります。それを知ることで、音楽理論を覆っているモヤモヤがもっともっと晴れていきますよ。

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