反復にまつわる技法

コード編 Ⅷ章:研究室

さて、今回は、これまでに紹介し損ねてきた、「反復」に関する様々な技法をまとめて確認しちゃおうというコーナーです。完全に補足の回ですね。「トゥー・ファイヴ・チェーン」や「中心軸システム」やを知った段階でもう随分と調性音楽の世界からは心が解放されていると思うのですが、今回の内容を知ることで、さらにもっと自由になれるでしょう。

#1.コンスタント・ストラクチュア

「中心軸システム」の回では、サンプルとしてマイナーセブンスをずっと連続するような楽曲を紹介しました。

一例

このように同じコードクオリティを3つか4つか、あるいはもっと繰り返すような構造を、ジャズ理論ではコンスタント・ストラクチュアConstant Structureと呼びます。和訳するなら「一定構造」とか「一定構造様式」って感じですかね。ハービー・ハンコック、ビル・エヴァンス等がこの技法のパイオニアとのこと。

こちらは英語の解説動画ですが、ピアノで実演してくれているので、それを聴けばちょっとイメージが湧くと思います。英語であれば、いくつも興味深い記事が見つかります。


例えばこちらの記事には、コンスタント・ストラクチュアを使う際の簡単なポイントがまとめられています。

  • コードクオリティは何でもいい
  • ヴォイシングは何でもいいが、一定の配置を一貫して保つべき
  • 基本的には、以下の動きに従うべきである:
    • 一定したルートの動き(3度ずつ動くとか)
    • ダイアトニック的なルートの動き(あるコードの構成音を辿っていくとか)
    • メロディラインの動きに準じる

もちろん、こんな応用技術を使うレベルまでくれば、このような原則に従う必要は全くありません。とはいえ、まあ模範的な使用法の指標とするぶんにはいいでしょう。

こちらにはおなじみバークリー音楽大学の記事も。ハービーハンコックの曲を非常に細かく分析しながら、コンスタント・ストラクチュアの解説をしています。
毎度ながら細かすぎる解説なので、和訳する気はありませんが、気になるところだけを拾うと、スケールの選び方についての話が面白いですね。

For soloing over the new progression, note that chords that can be analyzed functionally may not sound functional when constant structures and scales in the new progression surround them.

コンスタント・ストラクチュアでリハーモナイズしたコード進行上でソロを弾く場合。ふだんの調性機能的にアナライズできるコードであっても、その解釈で演奏すると一定構造の中ではうまくハマらないことがある、という話です。
例えばの話ですが、IImとドリアンスケールからスタートしたのであれば、次がVImでもIIImでもドリアン一発でいった方が、より調性が曖昧な、「コンスタント・ストラクチュアらしさ」が引き出せるといったところではないでしょうか。


実際に、かっこよさに定評のある「マイナー9th」のコードで突っ走った例がこちらです。ヴォイシングもなるだけ一定。最後だけは、メジャーセブンス、ディミニッシュと進んで調性を出してみました。
確かに、なんかハービー・ハンコックとかスティービー・ワンダーがやってそう感がすごい。中心軸システムの時にもあったとおり、ヴォイス・リーディングをうまく回せばトップノートを維持することもできますから、歌モノに転用することだってできるでしょう。

あるいは、BメロやCメロ、サビ直前とかにちょこっとこういう進行を交えて、メロディもドンドン転調していったりしたら、それはまた面白い雰囲気が出せると思います。

#2.ゼクエンツ(反復進行)

やっぱりジャズ理論は自由で楽しいなァという感じですが、実はクラシックにも似たような考えがあり、それが反復進行Sequenz/ゼクエンツです。
なんだかメチャクチャかっこいい名前ですが、実は単なる「シーケンス(Sequence)」のドイツ語版。

ゼクエンツはその名のとおり、同じ形の動きを反復する技法のことです。例えば・・・

シーケンス1

シンプルな、6-2-5-1-4-7-3-6という古典派短調風の流れですね!
6-2の強進行がワンセットで、あとはそれを2度下げながら繰り返していて、これがまさにゼクエンツです。クラシックではおなじみの「モチーフの展開」も、広義のゼクエンツの一種と言えるでしょう。
ただしこれは完全な反復ではなく、Aマイナーキーの調性世界を守ったまま移動しています。だから例えば、IVVIIm(-5)のところだけルートが増四度で移動していますよね。その点において、完ぺきな「反復」ではない。もっと徹底的に、調性から逸脱して反復することだってもちろんできます。


こんな感じです。今回は、伴奏の和音自体も四度堆積の平行移動にしていて、これ自体がゼクエンツのようなもの。そのうえで、さらに1小節でワンセットのゼクエンツになっています。1小節進むごとに、半音ずつ下がっていく構成。
四度堆積の効果もあいまって調性機能感がなくなり、かなり近代的な印象になりました。螺旋階段を延々と下っていくような感じで、なかなか面白いでしょう?
一応楽譜もありますが、こうなっちゃうともう何が何だかです。

シーケンス2

こんなの読むくらいだったら、いっそのことピアノロールの方が動きがわかりやすいかもしれません。

ピアノロール

綺麗に下降しているのがわかりますね。
ゼクエンツには区別があって、こちらのように、調性を超越して完全に同じ形を繰り返すものを移調反復進行Real Sequenceと呼び、先ほどのように調内の音階に沿いながら繰り返すものを移度反復進行Tonal Sequenceなどと呼ばれます。

島岡和声ではさらに、4度上行のゼクエンツは「正進行型」、2度上下は「準正進行型」、4度下行は「変進行型」なんていう風に名前をつけていたりしますね。

ゼクエンツは古典派の理論にもきちんと取り上げられていて、歴史を辿るとさらに昔のバロック音楽でもたくさんの使用例があります。音の繋ぎ方に厳しい古典派理論ですが、このゼクエンツを使用する際には、いくらか基本ルールを無視していいことになっているんですよ。

クラシック音楽での例

まずはバロック音楽の代表格であるヴィヴァルディの曲を見てみましょう。


四季より、「冬」。上の音源のちょうど半分くらいからですね。3-6-2-5-1-4-7-3という、先ほどのピアノサンプルに似た、強進行によるゼクエンツが構成されています。これは調性を崩さないよう作られているので、Tonal Sequenceに分類されます。

せっかくなので、「夏」も。こちらはあまりゼクエンツ感が薄いですが、ようはこういうシンプルなモチーフの反復についても、広義のゼクエンツに含まれます。ドレミ→シドレ→ラシド→ソラシと、一定間隔を保って下降していますからね。

こちらはバッハの曲。けっこうめまぐるしくコードが動くなかで、そこまで大仰でないゼクエンツが用いられています。

今度はメンデルスゾーン。冒頭から早速ゼクエンツですね。何だか奥深いコード進行をしていますね! バロック音楽には、古典派にはない様式美があって、それが魅力のひとつでもあります。

#3.オスティナート

さて、次に紹介するのは、もっともっと簡単な話。ひとつのことを執拗にずっと繰り返す、オスティナートという技法です。技法というか、ただ執拗に繰り返し続けるだけなんですけど、まあ、名前があった方が格好がつきますから。


例えばホルストの「火星」は、5拍子の印象的なリズムをずーっと繰り返すことで有名。こういった手法が、オスティナートです。

ラヴェルのボレロもそうです。特に低音部がこれを行うものは「オスティナート・バス」と呼ばれます。まあ、テクノやロックの世界ではこのような「執拗な繰り返し」はあまりにも当たり前の出来事ですから、ことさら特別視するようなことではありません。ただこう名前がきちんと付いていて、「技法」として認知されていますってだけの話ですね。

#4.リフ

ロックやジャズにおいては、曲を通して繰り返される印象的なフレーズはリフRiffと呼ばれます。ものすごく今更ですが・・・これまできちんとは紹介していませんでしたね。


ロックのリフはとにかく潔さが大事ですね。シンプルなフレーズでやりきる勇気が必要です。


そんなわけで、今回はまあ「こんな名前がついてるんだあ」という確認であって、技法としてそこまで目新しいものはなかったですね。

色々と活用法が見出せそうなのは、コンスタント・ストラクチュアゼクエンツでしょう。こういった発想法を常に頭の隅においておくことで、突拍子も無いようなアイデアを完全なコントロールのもと使いこなせるようになり、表現の幅はさらに広がっていくはずです。

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