接続系理論 ⓬ ファントム・フリー

コード編 Ⅷ章:研究室

§1 接続系理論をもう一度

今回は、接続系理論の続きです。I章の段階ではユーザビリティを最優先にして「接続系統」という粗めの5分類を行いましたが、何もそれだけが唯一の分類法ではありません。接続系理論の根本思想は、2つのコントロール・ファクターを元に曲想を論じる点にありますからね。

ルートの変化
コードの長短

そしてこの「ものさし」自体も、まだセブンスコードすら学んでいない時に解説したものですから、度数は簡易度数、コードクオリティもメジャーかマイナーかの二択と、ずいぶんビギナー向けです。本格ジャズ理論、本格古典派理論を経た今なら、もっとふさわしいフォームがあるはず。ちょっと、アップデートをしていきましょう!

アップデートの方針

しかし音楽理論とは我々にとっては「ツール」であり、使い道が想定されていなければ無意味です。そこで今回は、不定調性の状況下での作曲の指針となるようなアイテムというのを目標にして、仕上げていきたいと思います。
調性をどこかに安定させないような曲。その作り方は、これまでほとんど感性頼みでした。理知的にそれを行うというのは、すごく難しい行為です。その点ジョン・コルトレーンの「Giant Steps」なんかは、理性的な美しさと奔放さが共存していてスゴイですよね。

こういうロジカルかつ自由な曲を、作りたいわけですよ! でもそれはけっこうむずかしい。

むずかしい

そんな中、不定調性やマルチトニックシステムの作曲ツールとして、接続系理論は適任です。というのも接続系理論は2コード間の相対的な連結を論じる理論であり、本質として調性に全く依存していないからです。

IIm-Vの動き

完全4度上行だから自然かつ力強い、マイナーからメジャーだから開放感がある。それって、不定調性下でも同じことが言えるはずです。だから、ちょこっとアレンジを加えてあげれば、絶対に即戦力になります。

コードクオリティのアップデート

初期の段階ではまだ「メジャー」か「マイナー」か程度の二択で済ませてきましたが、特にジャズ理論を通り過ぎた今となっては、「メジャーセブンス」と「ドミナントセブンス」ではやることがまるで違ってくることはもはや明白です。そうすると、コードクオリティは少なくとも4種類、想定する必要がありますよね。

  • メジャーセブンス
  • マイナーセブンス
  • ドミナントセブンス
  • マイナーメジャーセブンス

ただし、「マイナーメジャーセブンス」だけは、基調和音や二次ドミナントの範囲まで進んでも登場しない、特殊なコードです。平生でこの子に出会うのは、パラレルマイナーのIVmを使ったときくらいですね。
そこで、本来は分類せねばならないのですが、この記事内においてはひとまずこれを除外し、「メジャーセブンス」「マイナーセブンス」「ドミナントセブンス」の3つだけに集中してお話しすることにします。

コードクオリティのアップデート

ルート分類をアップデート

接続系の系統分類は、ルートにおいてはかなりザックリでした。「長2度」も「短2度」もひとまとめだし、上行も下行もひとまとめ。
しかし、「中心軸システム」と併用するアイテムとして考えるのであれば、度数の長短も、上下も、しっかりと分けてあげる必要があることは間違いありません。「移動なし」も含めると、度数の変化パターンは当然12種類になります。

度数のアップデート

ちょうど2倍に肥大化するわけですが、理論に強くなった今であれば対処できるでしょう。

機能をアップデート

I章のときは、接続系理論はTDSの”型の理論”と組み合わせることでよりパワーを発揮しました。IImVIVVの接続の”差異”を分析するのが接続系理論で、一方この二者の”類似性”を分析するのが機能和声論。ふたりは補完関係にあるのです。

しかし、ここでノーマルな機能論を用いることは、不定調性という今回の目的と噛み合いません。そこで今回、ここも内容をアップグレードして、中心軸システムと手を組むことにしましょう。

中心軸システム

バルトークが作るような、調性のハッキリしない音楽に対応するために作られたシステムですから、まさに今回の目的にぴったりの相棒と言えます! 思えば中心軸システムも、こんなに斬新で美観に優れるアイデアであるにも関わらず、これをどう活かすかという点が全く解説ゼロのため、みんながその使い道を持て余している感があります。Nexus SystemとAxis Systemが手を結ぶことで、WIN-WINの結果を生み出そうという目論見です。

不定調性における機能の意味

しかし「不定調性における機能」というのは、ある種の矛盾を孕んでいます。だって機能論のすべての基準となっているのは、主和音が持つ調性中心としての引力です。その安定感、着地感こそがトニックであり、すべての機能はそこを中心にして築かれます。しかし不定調性下では、どこが中心なのか、どこが安定地点なのかは不定です。T=安定、D=不安定というような話は、不定調性下ではほとんど意味を持たないのです。それは、中心軸システムの回で既に確認しましたね。

このドミナントが、果たして「不安定・高揚」に聴こえるのか? という話ですね。もはやそんな単純な次元ではなくなっているのです。

相対性は残っている

でも、不定調性下においてもなお機能に関して残されているものがあります。それは、機能の相対的な変化感覚です。どんな環境であろうとルートがP4上行したら「機能が進んだ」という感覚はあるし、短3度下行だったら「機能が留まっている」という感覚はある。これは感覚論ですが、少なくともそういう「機能感の認知スキーマ」が”ある”とここでは仮定します。

相対的感覚

「和音そのものでなく、その繋ぎ目に注目する」という観点は、接続系理論の本質とも合致しています。だから、「安定・不安定」はもうない。でも機能の「順行・逆行・停留」はある。そしてそれを道標のひとつにするということです。

ルート変化と機能変化の一致と統合

今回このように「機能」と「ルート変化分類」を捉え直したことで、話は非常にスッキリします。ルートの変化とTDSの変化を完全に対応させることができるからです。

例えば今まで「E型」は、E¹かE²かで機能の変化する/しないが分かれましたが、今回そもそもルート変化を12音単位で見ますので、そこがしっかり分化されます。
それからB型の進行にはTSSDDTの3つが当然あったわけですが、不定調性の世界では全員同じ「機能順行」にまとめられます。

ルート変化 機能変化
m2↑ 逆行
M2↑ 順行
m3↑ 停留
M3↑ 逆行
P4↑ 順行
+4↑ 停留
m2↓ 順行
M2↓ 逆行
m3↓ 停留
M3↓ 順行
P4↓ 逆行
同ルート 停留

ですからある意味では、「機能変化」はもはや単独の分析要素というより、ルート変化に付随する属性Attributeのようなものだと言えます。「機能変化」を「ルート変化」の付随情報として統合した形で認識できるということです。

TDS変化

これで、I章のときの「いかにもビギナー向け」だった接続系理論が、不定調性向けのツールに変貌してきました。

ここまでのまとめ

さて、それでは改めて考えます。「コードクオリティ」を3種類に絞り、「ルート変化」を12種類に細分化し、「機能」を度数へと統合しました。そうなると、コードのクオリティ変化と、ルートの度数変化の組み合わせ・・・つまり「あるコードからあるコードへの相対的な進行」というのは、何種類に分けられるでしょうか?

考えてね

では答え合わせ。正解は、3×3×12で、108種類です。

108種類

・・・思ったよりは、少ないですよね? 人間の煩悩の数と同じです。
というのも、これは「相対的な変化」に着目しているからですね。ようは、調性音楽においてはIII7VIm7VI7IIm7では全然意味が違いますが、「調性が曖昧になった世界」では、そもそもIがどこだかハッキリしない。だからこの2つはどちらも同じ「ドミナントセブンスからマイナーセブンスへの完全4度上行」として、同一視してしまう他ありません。

その結果が、108種類ということ。そう考えれば、この数の少なさには納得がいきますね。ちなみに、マイナーメジャーセブンスまで勘定に入れると、4×4×12で192種類まで膨れあがってしまいます。ハーフディミニッシュとディミニッシュセブンスまで入れたら、432種類。やはりこうしたコードたちは例外的存在として、一旦置いておくべきでしょう。

そんなわけで、ここまででまずひとつ、小さな結論。
トーナル・センターが曖昧になった「不定調性」の世界(「無調」とは違う)においては、コードの「相対的な進行感」は、たったの108種類に分類が可能である。