ドミナントセブンス上のスケール

さて、VI章の前半は主にコードについて扱ってきましたが、ここからはスケールの方に話を移していきます。ジャズ理論にとってスケールが重要であることは、初回からお話ししているとおり。
後半では、コードとスケールの関係性を論じる「コードスケール理論」という壮大なゾーンに突入します。ここではそれに向けた「準備運動」として、コード上でのスケール入れ替えについて少し紹介します。

#1 ドミナントセブンスで暴れよう

まず知っておいて頂きたいのは、ジャズではドミナントセブンスコードの時が絶好の暴れどきだということです。それは、「オルタード・ドミナント」の時にもお話ししました。ドミナントセブンスは構成音の中に「増四度」が含まれる不安定な和音。その後でそれが”解決”されることでスッキリするんですよね。
ですから、次に落ち着いたコードに行くのであれば、ドミナントセブンスの時にいくら暴れまくったって「良い緊張と弛緩の演出」になるという論理です。ポップスの世界であっても、ドミナントセブンスであれば、大衆性をキープしつつジャズ的な技を入れ込む余地があります

「コードスケール理論」の魅力を感じてもらうためにも、ここで「ドミナントコードの時によく使われる派手なスケール」を紹介したいと思います。

上にソロを乗せていく音源はこちら。このIII7のところに色々なスケールをあててみたいと思います。

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ちょっとポップめの音源ですけど、まあコテコテのジャズでやるよりもポップスでの実践法が分かってよいと思うので。それでは、いきます。

#2 HmP5b

HMp5B


ギターのスケールを調べていると必ずぶち当たるのが、Harmonic Minor Perfect 5th Below、略して「HmP5b」です。
コレ、名前は難しいけど、鍵盤を見ればお分かりのとおり、要するに“いつものハーモニックマイナー”のことなんです。上の音源を聴いても、全然聞き慣れた感じがすると思います。ここが出発地点って感じですね。

「パーフェクト・フィフス・ビロウ」の意味については、最後に付け加えとして話すことにして、まず先に色々なスケールを見ていきましょう。

#3 オルタード・ドミナント

オルタード


これは「オルタード・ドミナント」の項ですでに登場していますよね。5度・9度の音を上下に変位させて、「♯5」や「♯9」といった難しめのサウンドを交えるスケールでした。

ポピュラー音楽ではちょっと聴かないような、少しひねくれた感じのサウンドになっています。ポップス界では「上級者向け」扱いのスケールですが、ジャズではコレくらいはむしろスタンダードな方に入りますね。スケールにおいては、ジャズは魔界なのです。

#4 ホールトーン

ホールトーン

全音差(=Whole Tone)だけで作られている過激な音階。メロディ編のIII章ラストに紹介したスケールでしたよね。もちろんジャズでも使われています。非常にユニークな響きがあるので、効果的な使いどころというのは限られてくるスケールであります。

今回のIII7の環境で話をしますと、ファがありますから、これはメロディックマイナーに近い。ファ#・ソ#・レは全然おかしな音ではありませんので、異物感を生み出しているのはラ#とドです。この2音をどのタイミングで組み込むかによって、フレーズが自然にも不自然にもなりうる。
もうすぐ知ることになる「コードスケール理論」では、スケール内の音を安心して使える「コード・トーン」と、緊張を生む「テンション・ノート」に分けて、演奏の質を高めていくことになります。

#5 コンビネーション・オブ・ディミニッシュ

コンディミ


「コンビネーション・オブ・ディミニッシュ」、略して「コンディミ」と呼ばれているスケール。スケールを構成している音をひとつ飛ばしで見てみると、ミ・ソ・シ♭・レ♭。これはディミニッシュセブンスの構成音です。また、残った4つを見てみると、ファ・ソ・シ・レで、これまたディミニッシュセブンスであることがわかります。

区別

2つのディミニッシュコードが組み合わさっていることが、名前の由来です。段差も面白くて、「半全半全半全半全」という風に、半と全を交互に繰り返しています。
よく見ると、E7の構成音が全部含まれていますね。弾いてみるとわかりますが、けっこうフレーズが作りやすいです。オルタードやホールトーンにはない完全五度(シ)の音があることが使いやすさの大きな要因ですね。

#6 リディアン ♭7スケール

リディアン♭7

スケールは無尽蔵にあります。こちらは名前のとおり、リディアンスケールの第7音を♭させた独特なスケールです。メロディ編Ⅲ章でやったとおり、リディアンは教会旋法の中では最も浮遊感がある。音源を聴いてもやはり、かなり浮き上がった感じがあります。
リディアンそのままだとレがドミナントセブンスの邪魔をしてしまうので、そこで登場するのが7thを♭させたこのスケールというわけです。

ファ・ソを含む点ではAメロディックマイナーに近く、またラやドを含んでいるという点で、ホールトーンと似たところもあります。E7のコード感からはちょっと浮いていて、そこが魅力ですね。

#7 ドリアン♭2スケール

ドリアン♭2

ドリアンスケールをアレンジしたのが、このドリアン♭2。GじゃなくてGが構成音にあるので、スケール自体が本質的に持っているサウンドとしてはEマイナーセブンスなのですが、あえてこのE7上で使うという選択肢も、ジャズの世界ではあるのです。メジャーとマイナーの混ざり合った質感が魅力的であることは、「オルタード・ドミナント」の回でやりましたよね。

構成音はCメジャースケールと似たものがほとんどですから、意外と地に足がついている。さっきのリディアン♭7とは正反対という感じのスケールですね。

そんなわけで、本当に代表的なコード上で代表的なスケールを幾つか弾いただけですが、こんな風に、「ひとつのコード上でも弾けるスケールはたくさんある」という考え方がジャズ理論においては重要になります。後半の「コードスケール理論」では、こうした部分を研究していくことになります。
ちょこっとジャズ風にしたいくらいの話であれば、単にこうしたスケールを丸暗記で挟み込んであげるだけでも、けっこうジャズっぽくはなりますから、「隠し刀」として持っておくといいかもしれません。

HmP5bのストーリー

さて、最後にハーモニックマイナーの後ろにくっついてる「Perfect 5th Below」ってなに?って話をさせていただきたい。ここにはストーリーがあります。しばしそれを語らせてください。

そもそもハーモニックマイナーってなんでしたっけ? 忘れている人は、メロディ編で要復習です。例えばAマイナーキーでは、ラがリーダー。でも、ラには半音下のパートナーがいないから、中心への引力が足りない。そこでラへの引力を高めるためにソを♯させた。それがハーモニックマイナーの生まれでしたよね。

ハーモニックマイナー

そこで生じる問題。これ、思いっきり安定した調性音楽でのストーリーなんですよね。完全にラが中心に話が進んでます。もちろんこのスケールの名前は、「Aハーモニックマイナー」です。我々はコードが「E7」のときに、「Aハーモニックマイナー」を弾いてるのだ。

ハーモニックマイナーの問題

ほとんど転調をしない曲であればいいですが、ジャズは頻繁に転調をします。そうなると、「ココのE7のとこはハーモニックマイナーで!」と言っても「それはEハーモニックマイナー? Aハーモニックマイナー?」って、すごく紛らわしいわけです。

そのような混乱を防ぐためには、「今コードはE7だけど、Aハーモニックマイナーで!」という必要があります。E7にとってAは、完全五度下だ。だから「Harmonic Minor Perfect 5th Below」となるわけです。

HmP5b

転調が多いジャズならではのネーミングですね。

さて、スケールの話はここまで。この記事で紹介できたのは、III7上の一部のスケールだけですからね。他にもVIIøの時のスケール、IΔの時のスケールなど、各コードにおいて第2・第3候補となるスケールが存在します。そういったスケールの知識を深めていくのが、この章の後半の内容になっています。

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