Lydian Chromatic Concept ❷

前回は、LCCの基本的な考え方を導入しました。

五度堆積を数珠つなぎにして作った「リディアン・クロマティック・スケール」から全ての音楽が生まれると考えること。

F Lydian Chromatic

この序列に基づいて、「7つの主要音階」を定義したこと。

名前 Rt 2nd 3rd 4th 5th 6th 7th
Lydian I II III +IV V VI VII
Lydian Augmented I II III +IV +V VI VII
Lydian Diminished I II III +IV V VI VII
Lydian Flat 7th I II III +IV V VI VII
Lydian Aux. Aug. I II III +IV +V VII
Lydian Aux. Dim. I II III IV,+IV +V VI VII
Lydian Aux. Dim. Blues I II III,III +IV V VI VII

そしてこのスケールをコードに対してあてていく際、コードのルートともキーのセンターとも異なる場所にスケールの中心が位置することとなり、これをリディアン・トニックと呼ぶこと。

リディアントニック

ここまでがしっかりと頭に入っていれば、この先も十分理解できるはずです。

#6 スケールの色彩

さて、LCCでは「7つの主要音階」を決めたわけですが、このスケールたちはそれぞれ異なる「色彩」を持つと考え、特にリディアンスケールが生み出す雰囲気のことをプライム・カラーPrime Colorと称します。

2516

前回紹介したこの演奏は、いわばプライム・カラーのみで彩られている状態で、コードの「変化していない状態のサウンドを最も完全に伝えている1」と説明されます。

それに対し他の6つのスケールは、「プライム・カラーと繋がりをもった派生色を代表している2」と説明します。リディアンを基本色として、そこからペアレントスケールを交換することで、“色を加える”ことが出来るというのが、LCCにおける重要なアイデアです。リディアン・トニックを軸として、モードの交換を行うわけです。

たとえば先ほどの2-5-1-6をすべて「リディアン・ディミニッシュト」に替えることで“カラー”を塗り替えると・・・

2516 dim

こうなります! すごく単純なスケールチェンジですが、ココにLCCの面白さが詰まっています。交換の軸がキー・センターでもなければモーダル・トニックでもないため、それぞれのコードがユニークな影響を受けますよね。

元のコード 変化する音 変化後のコード
D-7(9,11,13) (9,11,13)
G7(9,11,13) G7(-9,11,13)
(9,+11,13) C-Δ(9,+11,13)
A-7(9,11,13) (9,11,13)

「ラだけにフラット」という前半2つは、既存の理論でも「Cハーモニックメジャースケール」を元にすれば生み出せますが、後半2つのC-Δ(+11)やAø(9,13)という編成は、リディアンを基本にしないとなかなか生まれてこないアイデアです。この段階へきてようやく、LCCの優位性が垣間見えてきます。基本的なサウンドをきちんと網羅しつつも、ほんの一歩踏み出すだけで、一般的な理論が把握するより“外”が見えるようにデザインされているのです。

そして4つそれぞれがバラバラな変化ですが、しかし、それぞれが帯びたカラーは似ている(とLCCでは考えます)。LCCでは、7つのスケールそれぞれが音楽の「主要な垂直的な色彩を象徴3」していて、「それ自身がもつ旋律的な色彩をコードに付与する4」と考えます。

この「色彩」という表現はレトリックとして非常に面白くて、というのも“クロマティック”という言葉には「半音階の」以外に「彩色の、色を持った」という意味があります。憶測ですが、発案者のジョージ・ラッセル氏は、クロマティックという言葉を、この2つの意味を合わせた「掛詞」として考えたのではないでしょうか。

#7 コードモード

コードスケール理論では、コードとスケールを対応させて、「コードスケール」というパッケージを作りました。LCCもアドリブを想定しているコンセプトですから、そこはキッチリやります。

「7つの主要音階」を親として生まれる子のモードたち、それをコードと対応させたパッケージをLCCでは「コードモードChordmode」と呼びます。「モード」が「スケール」に対する子であるという考え方が名前に反映されているので、「コードスケール」よりも分かりやすい名称ですよね。

ですからこれまでの「G7にFリディアンスケールを対応させる」というのは、ちょっとカジュアルな言い方でした。改めて正確にと、LCCではG7というコードに対して「Fリディアン・スケールというペアレント・スケールから生まれた第IIモードを対応させる」と考えます。

Mode II Seventh

リディアン・“ペアレント”・スケールから生まれる子供らは、当然リディアン、ミクソリディアン、エオリアン・・・と「見慣れたやつら」が並ぶわけですが5、これに対してもLCCは別の名前をつけていて、たとえばこのGミクソリディアンは「G Thirteenth Principal Chordmode」と名付けられ、そしてリディアンから作る第IIモード全般が「LYDIAN MODE II Seventh」と呼ばれます。

サブ・プリンシパル・コード

またLCCでは、ノンコードトーンを完全に積んだ状態のコードをプリンシパル・コードモードPrincipal Chordmodeといい、そこから部分的に音を選びとって作るコードたちをサブプリンシパル・コードSub Principal Chordsと呼びます。この“上下関係・二重構造”も地味に重要な点で、CSTでは例えばC7にもC7sus4にも「Cミクソリディアン」を対応させていて、そこはシステム上は特に区別されていませんでした。

Ionian Sus4

このサイトではそれを「内部情報を書き換えて済ませる」と表現し、処理を“ゆるい”形で済ませている部分であると説明しました。LCCではC7とC7sus4は、どちらも同じ「プリンシパル・コードモード」から生まれるが、異なる「サブプリンシパル・コード」であるという風に、きちんと階層を用意して区別します。

階層構造

後発の理論だけあって、この辺りの枠組みがキッチリ整理されているのも、魅力のひとつです。

#8 他の「親」から作るコードモード

そうすると、ここからの流れはだんだん想像がついてきたのではないでしょうか。CSTの解説では、3つのペアレントスケールから各7つのモードを作り、21個のコードスケールが出来上がった。それだけでも、相当なサウンドの可能性を秘めていることを学びましたね。

しかしLCCでは主要な音階が7つ、しかも一風変わったスケールばかりです。想像するだけで倒れちゃいそうですが、LCCでは実際に7つのスケールからコードモードを生成していくのです。LCCの情報量が膨大である理由のひとつがここです。

コードモードたちを視聴

この記事で全てのコードモードを紹介なんてもちろんしませんが、少しだけサウンドを聴いてみましょう。たとえばメジャースケールから作られる7つのコードは、並べるとこうです。

Major Scaleから作る7つのコード

テンションを積めるだけ積むましたが、それでもやはり相当聴き慣れた感があって、今さらこれを聴いてもさすがにインスピレーションを刺激されることはありませんね。一方、「リディアン・オーグメンテッド」や「リディアン・ディミニッシュト」を親にしてコードを構築していくと・・・

Lydian Augmentedから作る7つのコード
Lydian Diminishedから作る7つのコード

このとおり、ヤバイのがいっぱいいます。特に「マイナーメジャーセブンス」や「オーグメンテッドセブンス」など、コードスケール理論では手薄なエリアのサウンドが次々と生み出されます。LCCは、こうした複雑なサウンドを「例外的な飛び道具」ではなく「基本的なシステム」として搭載している点が、革新的であるわけです。
LCCでは、各スケールのIとVIから生まれるコードがトニック・ステーションTonic Stationsとして機能し、そこでコード進行が解決すると考えます。

#9 いくつかの実践

LCCの発想法を理解するには、とにかく実践をすることです。もう少し実例を考えてみましょう。

7つの“色彩”比較

たとえばA–7一発のインプロを考えたとき、これに真っ先に対応するモードは、C Lydianの第VIモードです。

A LM VI minor

実質的なサウンドとしてはA Dorianに相当します。リディアン・トニックはCですから、Cを軸音にしてモード交換ができる。実際に7つのスケールを交換して演奏を比べてみましょう。6

興味深いのは、やはりコードのルートとは違う場所を軸にして交換しているにも関わらず、違和感がないところです。 交換によって、A音からみたモードはどうなったのかを確認してみます。

適用する親スケール 加わる音 実質的なモード
C Lydian (基本状態) A Dorian
C Lydian Aug. A Melodic Minor
C Lydian Dim. A Aeolian 5
C Lydian 7 A Dorian 2
C Aux. Aug. 、ソ (A Neapolitan Major)
C Aux. Dim. 、ソ、ファ A Diminished
C Aux. Dim. Blues 、ソ、レ A Dominant Diminished

4つめで「ナポリタン・メジャー」という、CSTで紹介した27個のモードにはない民族風の音階が生じました。「Aのルート上でCホールトーンを弾く」というトリッキーな行為をしたため偶発的に生まれたものですね。
6つめなんかは、ド・レのところをシ・ドとみなして「ドミナントセブンスの時に使う」と解説されることの多いスケールですが、実際にはこうやってマイナー系コード上のアドリブで使うこともできるわけです。

LCCは、「何かしら実践すればそこに何かしら小さな発見がある」ようなところがあり、そのたびに自分が無意識に抱いていた固定観念に気づかせてくれます。

色彩の統一

「共通カラーのスケールを選び続ける」というのも、もう一度別の進行で実践してみましょう。

ED7G–7F–7

こちらは、おなじみ4-3-6系の進行でずっとLydian Diminishedを使って演奏した例です。E♭Δ7のときにはE♭ Lyd Dimで、Gm7のときはB♭ Lyd Dimでといった具合に、それぞれのコードのリディアン・トニックを見つけてから、そこを軸にLydian Diminishedに交換します。コードが変わっても、常にLydian Diminishedのブルージーで宙に浮いた感じが共通しているため、どことなく統一されたカラーが打ち出されていますね。

コルトレーン・チェンジとの併用

LCCは、例えばコルトレーン・チェンジのような既存のテクニックと併用することもできます。コルトレーン・チェンジは意外性のある転調が面白いですが、難しさもあって、頻繁な転調を成立させるために進行がV-Iに頼らないといけないので個性が出しづらいんですね。

こちらはコルトレーン・チェンジを使用して組んでみた複雑なコード進行。「進行」に意外性はありますが、各コード単体のサウンドはどれも普通のままなので、実はこれでも単調です。そこで、LCCのアイデアを持ち込むと・・・

ときおりブルージーな色を入れたり、オーグメントの気持ち悪い感じを入れたり、自由なカラーリングができるおかげで、より“ギリギリ”の過激なサウンドを生み出すことができました!

メジャー/マイナーやキーといった価値観よりもプリンシパル・スケールたちがもたらす「カラー」という観点で音を捉えることで、音に対する接し方が自ずと変わってきます。普段は考えもしないような音選びが自然と出来てしまうのです

このように、従来の価値基準から離れた発想で音楽を構築できるのが、LCCの醍醐味です。スケールの交換に限らず、特殊なペアレント・スケールたちを元に作られるコードモードたちが持っている可能性というのは、計り知れないものがあります。

可能性

#10 論証について

さて、リディアン・スケールが統一性を体現したスケールであることについての論証。この点を「後述します」といって放置したままでした。それには理由があって、LCCが述べるリディアンスケールの優位性についての論述は、言ってしまえばあってもなくても変わらないようなものなのです。

“公理”としての「統一性」

あらゆる音楽理論の体系には、数学で言うところの「公理7」が存在します。我々はつい忘れがちですが、従来の音楽理論にも、何ら証明をせず当然のものとして受け入れている前提がたくさんあります。それは例えば、音楽が「大きく長調/短調の2つに分かれる」とか、「半音が最小単位の音程である」とか、「濁りは解決を必要とする」とかです。それらは音楽理論を体系だてるにあたって必要な「出発地点」です。民族音楽などその公理に反する音楽ジャンルは、「適応外」として処理することで理論の形を保っています。

しかし、そうした「公理」を部分的に破壊する方法論もこれまでにはありました。「ひとつの場面に調性はひとつ」というコンセプトを破壊して「多調性」のアイデアが、「ひとつの場面にスケールはひとつ」というコンセプトを破壊して「サイド・ステッピング」のアイデアが生まれた。もっとカジュアルにいえば、「音楽にはメロディが必要」というコンセプトの外にラップ音楽が生まれたりね。

これらはみな、従来の「公理」を否定したからこそ生まれた発想です。これらは一般的な理論とは互換性がありませんが、だからこそ斬新なサウンドを生み出すことが出来ます。

そうであるならば、「メジャースケールが最も根源的」という公理を否定した音楽観があっても良いではないか。そうして生まれたコンセプトが、リディアン・クロマティック・コンセプトなわけです。LCCが発表されたのは、1953年。近代クラシック、現代音楽、そしてジャズが十分に発展した後です。「メジャースケールという既成概念から離れてモダン・ジャズ向けのやつを一本作ろう」という発想が生まれたって、何ら自然な成り行きですよね。

言わばパラレルワールドのようなもので、LCCは決して、リディアンスケールが最も根源的な音階と「証明」したわけではなく、それを「公理」とした別体系を作ったにすぎないのです。

世界線大雑把なイメージ図

その証拠に序文では、「このアイデアに対し完全にオープンな心で」「西洋音楽の理論基盤の先入観を捨てて」「用語や様式を積極的に取り入れることで」「長短、協和/不協和といったシステムから雄弁に離反し」「新鮮な見解が得られる」といった言葉が並びます。こうした言葉からも、LCCが決して従来の認識の延長線上に存在するものではないことが分かります。

LCCの根本を司る「統一性」という言葉には、次のような説明が与えられています。

Unity is… instantaneous completeness and oneness in the Absolute Here and Now…above linear time.

(統一性とは・・・「絶対的」な「今」「ここ」に・・・直線的な時間上に、瞬間的に生み出される完全性、ひとつであること・・・。)
George Russell, “Lydian Chromatic Concept of Tonal Organization”, p8

統一性とは、ひとつであること」・・・こんなの完全にトートロジー(同義語反復)ですよね。書籍からは、「統一性」や「重力」を明確に定義しようという気持ちは一切感じられません。申し訳ていどに、倍音の話をしたり完全五度の話をしたりはしていますが、「証明」というには程遠い文量。それもそのはず。彼らにとって「統一性」は、証明不要の存在なわけです。

それは既存の理論系で言うところの「機能」や「中心音」といった概念に近いと思います。私たちは便宜上「機能」というものを定義してはいるものの、じゃあ本当に機能というものがコードに備わっているのか?と問うと、実はそれって証明できていない。「あるという前提」で理論が進んでいます。その根本を問いただすのは、ナンセンスですよね。

理論と実践

「機能」というものがあるにせよないにせよ、あると仮定することでコードの分類・整理は容易になり、理論は組み立てやすくなります。そこに実践的な価値があるから、機能というアイデアは生き延びています。つまり、理論の存在意義は実践性によって支えられているのです。実践できないものは、ご存知「机上の空論」と呼ばれる。

LCCは変わり種のスケール7つからコードモードを作っていて、従来と違ったモード交換を行うのだから、そのシステムに乗っかれば必然的に従来の音楽理論で生まれづらかったサウンドを生み出せます。この点においてLCCには確かな実践性があり、それゆえその存在意義が約束されている。

音楽理論は、たまに科学のような顔をすることがありますが、実際のところその大部分は全くもって科学ではなく、経験知の集合体にすぎません。
リディアン・クロマティック・コンセプトのストーリーに対しては、「音の真実を科学的に解き明かす新説」などとは考えずに、「面白いアイデアが飛び出しやすいよう丁寧に作られたメソッド」だと思って取り組めば、より実践的な思考でこれを受け入れることができるはずです。

2回かけて、LCCのおおよその概要やイメージを掴むところまではいけたかと思うのですが、書籍ではもっとひとつひとつのことが細かく書かれているし、何よりここから先の内容がまだまだドッサリあります。翻訳版も出版されていますが、相当値段が張るので、まずは近くの図書館にでも置いていないか検索してみるとよいと思います。


VI章はここで最後です。特に忘れないでほしいのは、「ジャズ理論」といってもその中に「コードスケール理論」や「バークリー・メソッド」「リディアン・クロマティック・コンセプト」のような分岐があり、言葉や概念のひとつひとつの組み立て方、比重の置き方、想定の仕方の差から、それぞれが微妙に異なった体系を完成させているということです。
またLCCの存在は、「当たり前のように信じていた観念が、実は自分でも気づかないうちに創造性・可能性を狭める原因になっているかもしれない」という重大な警鐘でもあります。そういったバイアスは、無意識だから恐ろしいのです。それを取り除くには、こうやって観念の“外側”を実際に体感するほかありません。

序論で述べたとおり、音楽理論はひとつではない。作る曲によって頭の中で「理論のスイッチ」を切り替えて作曲したり、あるいは複数の考え方をミックスして自分独自の方法論を練り上げるのも面白いですよ。理論が身に染み付いてくると、人はどうしても無意識の“枠”にはまりがち。やはり「自由な精神」というものを、常に保ち続けてほしいと思います。

Ⅵ章はこれで修了です。ジャズ理論のコンセプトが面白いと思った方は、ぜひ書籍などでさらに深く学んでみてください。

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