augとdim

コード編 Ⅲ章:新しい名前
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今回は「新しいコードネームを知る」回です。

sus4・sus2に引き続き、メジャー・マイナーコードを変化させて新しいコードを作ります。
今回は臨時記号(♯・♭)を使うコードなので、かなり独特な響きがします。聴きやすいコードを中心に使うダンスミュージックではあまり使われませんが、ポップスではスパイスとして持っていると武器になります。


前回は、コードの真ん中の音…すなわち「第三音」を上下させることで、新しいサウンドを手に入れました。sus4とsus2です。

sus4とsus2

そうなれば、次にやることは決まっています。今度は、第五音の方を動かすのです。

#1 組合せ論

まず最初に、前回との状況の違いを確認します。我々が有する最も基本的なコードは、メジャーコードとマイナーコード。その違いは、第三音の位置でした。

majとmin

だから、この3rdを吊ってしまうsus4やsus2は、明暗が失われるって話でしたよね。今回は第五音を動かすので、第三音はそのまま。そうすると、生み出される配置のパターンは4種類になります。そう言われて、頭の中に計算が浮かぶでしょうか?

元々のコードがメジャーなのかマイナーなのかで2とおり、第五音を上に吊るか下に吊るかで2とおり、掛け合わせて4とおりです。

maj + up
maj + down

min + up
min + down

だからコレで、新しく4つのコードを手に入れることになります。

#2 ♯5と♭5

新しいコードの名前はカンタン。第五音を上に移動させたやつには「"♯5(シャープファイヴ)"」、下に移動させたやつには「"♭5(フラットファイヴ)"」という記号を、右上に付加します。

5thの変化

あるいは、♯・♭という記号の代わりに、それぞれプラス・マイナスを用いる表記も広く使われています。

表記2

この場合も、やっぱり読むときには「シャープファイヴ」「フラットファイヴ」と言いますね。

マイナー♯5について

4種類コードが増えるといったものの、このうち♯と♭が同在する「マイナー・シャープファイヴ」については、第三音と第五音の間が開きすぎていて、とても奇妙なサウンドがします。

仲間はずれ

それゆえ、一般的な音楽理論では、このコードは亡き者とされています。実際、普通に曲を作っていてもこのコードに出くわすことはほとんどありません。さらにこの先進んでいくと、このコードには実際には別の名前をあてた方がしっくり来ることも分かってきます。自由派でも、このコードについては特に取り上げることなく進もうと思います。

#3 メジャーコードと♯5・♭5

aug
フラットファイブ

それではまずはメジャーコードを♯5化・♭5化した時の用例を見てみましょう!これらは存在自体が特殊なコードなので、簡単には使えません。あくまでも刺激物として曲中に組み込みます。

Iの♯5/♭5

フラットファイブもシャープファイブも特殊な響きなので、これを本来「安定」役であるIで使うとなかなか強烈です。

II(+5)I(-5)I

イントロや間奏のスパイス的な位置に使うといいですね。

こちらの曲のイントロギターでこの進行が象徴的に用いられています。典型的な導入例と言えるでしょう。

もちろんこういう独特なパターンだけではないです。例えばクオリティ・チェンジのVIなんかは、メロディとの合わせ次第で(♯5)が登場します。

VI+5

こんな風にね。それから念のため確認すると、コードネームが「♯5」だからといって、必ず楽譜上で臨時記号の♯が付くとは限りません。それは上の楽譜でも明らかですね。もう既に何度も言っているとおり、五線譜で♯や♭が付くかどうかは、コードネームとは全く関係のない話なのです。

#4 マイナーと♭5

マイナーフラットファイブ

マイナーコードの方の第五音を半音下げたものが、「マイナーフラットファイブ」。このコードについては、以前に一度だけ登場しましたよね!
それは、「ダイアトニックコード」を紹介した時です。一般音楽理論では基本の和音として使われていた、VII番目のコードがマイナーフラットファイブでした。

ダイアトニックコード

フラットファイブは、聴き慣れたメジャー・マイナーよりも格段に不安定な響きがする「不協和音」であるということで、「変なやつ」呼ばわりして基本から除外したんでしたよね。ここへ来て運命の再会です。今回こそは、この子の使い方をしっかり見てあげましょう。

VII番目の和音の使い方

この和音はその不安定さゆえか、クラシックでは進行先がIIImIIIに限定されていて、特に後者がお決まりパターンとして現代ポップス界でも生き残っています。音源にするとこんな感じ。

楽譜・コードでいうと下のようになります。

VIIの用法

「メジャー」と「マイナー」以外の変わり種コードは、こんな風に使われ方の定番パターンが決まっていることが多いです。それらを覚えていくことで身につけていくのです。

この進行はかなり感情を揺さぶる感じがあるので、バラードで活用されていますよ。


「右手が まっすぐな想いを 」のところのコードの流れが、まさに上の7-3-6進行になっています。この「揺さぶり」はフラットファイブの力です。

こちらもサビ、「時よ止ま」のところでVIIm(-5)に突入します。そこから先はやっぱり、III7VImと続きますね。

メジャー・マイナーのその先へ

前回のsus4も含めて、メジャー/マイナー以外のコードは、こういった特徴的なサウンドをひとつひとつが有しています。これらを個別にマスターしていくことで、よりインパクトのある表現が可能になるわけです。

それゆえ、「sus4といえばVかI」だとか「マイナー♭5といえばVII」といったように、ディグリーとセットにしてひとつひとつ活用法を覚えていくことがすごく重要になります。
構成音を覚えて終わりではなく、サウンドのキャラクターや使いどころを記憶に残していってください。

#5 表記や別名について

ここからは表記や名前の話です。悲しいことに、♯5と♭5にはまだもうひとつ別の呼び名が存在しているので、紹介させてください。

先ほど「マイナー・シャープファイヴ」を亡き者としましたが、クラシックの時代には「メジャー・フラットファイヴ」もバランスが悪く、残り二人よりも重要性の低いものとみなされていました。

重要性の差

逆に言えば、残った二つが重要度において勝る。そして重要なこの2つには、「シャープ・ファイヴ」「フラット・ファイヴ」などという機械的な名前ではなく、もう少しユニークな名前が与えられていました。

C augmented
C diminished

"augmented(オーグメンテッド)""diminished(ディミニッシュト)"です。この単語は、詳細度数 ❷のときにも登場しました。それぞれ「増加した」「減少した」を意味する単語でしたね。

インターバル

メジャー・シャープファイヴは、距離が増してるからaugmented。マイナー・フラットファイヴは、距離が減っているからdiminishedなのです。1 楽譜上では、それぞれ縮めて「aug」「dim」と書きます。

4つの基本トライアド

クラシック理論ではこの4つを並べて「基本のトライアド4種」と紹介するのが普通で、その流れを汲んだ実に多くの理論書で同様の紹介がされます。ジャズ系であっても、この「aug」「dim」という呼び名は極めて一般的に使われます。

最初は言葉の意味するところが思い出せなかったりして大変ですが、ひとたび覚えたら、「♯5」「m♭5」という無味乾燥な名前よりも、この「aug」「dim」に愛着が湧いてくるものです。

記号を用いた表記

さらにさらに、「アルファベット3文字なんていちいち書いていられねえ」という人たちが、さらなる略記を提唱しました。それがこちら。

プラスとマル

augmentedはプラスの記号、diminishedはマルの記号。この「プラスとマル」は、詳細度数の時にも登場しましたね。たとえば「増四度」の略記が「+4」、「減五度」の略記が「○5」となるんでした。

これは、古典クラシック時代から使われている伝統的な表記でもあります。

エメリーStephen A. Emery “Elements of Harmony” p.12 (1879)

表記のまとめ

そんなわけでココ、表記が大渋滞しています。もう一度、まとめますね。

表記一覧

…ハイ。これはもう、ポジティブに捉えましょう。好きな表記が選べる。選べる4種類。別に流派ごとにキッチリ分かれているわけでもなく、ジャズ系で「➕○」の表記をすることも普通にあるし、「Caug・Cm(♭5)」なんていう風にデコボコにチョイスされているものもあります。

ですからココは丸暗記というより、意味や由来から覚えるといいでしょうね。最近は「Augmented Reality(拡張現実)」なんて言葉も登場しましたし、これを機にaugmented,diminishedという言葉を、音楽用語じゃなく英単語として覚えてしまえばいいのです。

この節のまとめ
  • 第五音を変位させることでフラットファイブ・シャープファイブのコードが作れます。
  • マイナー♯5は、後に別のコードネームが与えられることになり、その存在を認められていません。
  • これらのコードは、使い所が限られたスパイス的存在です。

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